新歩道橋833回

2013年2月23日更新


 
 真砂皓太という役者がいる。松平健座長の側近というか腹心というかの信頼を得る。芸歴30年を超えるから、僕より年下だが〝大〟をつけてもいい先輩だ。以前川中美幸公演で一緒になり、親交が続く。今回は名古屋・御園座の楽屋が同室で、初めて武士をやる僕は、大小両刀の差し方をはじめ、様々な指南を受けた。
 昼夜2回公演の日の昼食も、この人が作る。若いころ板前の修行もしたという本格派。朝、楽屋入りするなり仕込みに入り、第一日はすき焼きの鍋をつつく豪華版から始まった。知人からの差入れが山ほどで、ステーキ、ハンバーグ、豚のしょうが焼き、カルビ・・・と、僕は突然肉食派になった。今公演は松平、川中ダブル座長を務める新機軸だが、お供をすれば二人とも揃って肉食派。
 《これがタフなスターのエネルギー源か!》
 と合点が行く。
 僕らの楽屋めしの相方は大迫英喜で、名代の殺陣師谷明憲率いる剣友会の一人。寸暇を惜しんで毎食山盛りのサラダ用野菜購入に走る。その剣友会のボス格は西山清孝、副将ふうが田井克幸で、東映時代劇の全盛時からの腕利きだ。お仲間は他に小西剛、荒川秀史、橋本隆志、白国与和ら。これが見事な斬られ方で、松平の鮮やかな太刀さばきのスピードと迫力を支えている。
 二本の芝居の柱は剛毅・松平に艶冶・川中、滋味・江原真二郎、飄々・曽我廼家文童、酒脱・園田裕久、端整・瀬川菊之丞、変幻・西川鯉之丞、艶然・土田早苗・・・なんて面々。何度も一緒に舞台を踏んで、友達付き合いをさせて貰っている田井宏明、安藤一人、綿引大介、小坂正道らの顔も並ぶ。
 彼らは大名や赤穂浪士、幕府の間者、侍、捕り手、商人などの何役もこなす。
 役が変わる都度、衣装やかつらを自分で替える。そのために舞台裏のあちこちにそれぞれの拠点を作る。芝居の「暴れん坊将軍・初夢江戸の恵方松」「赤穂の寒桜・大石りくの半生」のほかに、松平ショー、川中ショーにも出るとなると大変。五木ひろしの手伝いもして旧知の小坂は衣装が合計13点。芝居をしたり踊ったりするよりも、着替えをし、衣装をたたみ、廊下を走る時間の方がずっと長いと言う。
 殺陣の面々も松平ショーでは「マツケンサンバ」ほかを踊る。頭が下がるのはボス格の西山も70才過ぎての手習い。けいこ場で自主練もした結果、きんきらきんの衣装で軽々とサンバステップを踏んだ。もう一人の獅子奮迅は僕と同じ楽屋の瀬野和紀で、松平の着替え、舞台への出入りなど全面フォローしながら、お庭番でカンフーふう殺陣をやり、川中りくの兄になり、2本のショーではメインダンサーの一人になる。楽屋の席が温まる暇もないが、笑顔を絶やさずに挙措はスピーディーそのものだ。
 「おはようございます。よろしくお願いします!」
 午前10時前から、明るい挨拶がこだまし、楽屋廊下を笑顔が往来する。ベテランの西川美也子、西川鯉娘、上代粧子らが先陣で、松岡由美、飲み友達の穐吉美羽、倉田みゆきらが続く。「私たち主婦なの」と笑うのは岡田里美、浅利悦子、金石与志能。大衆演劇の座長岬寛太は息子近藤海太と二人連れ、もう一人の座長門戸竜二は以前からの顔見知りだが、近々、喜多條忠作詞、鶴岡雅義作曲の「一途の花」という作品をレコーディングするそうな。巨体をゆすって歩くのは勝新太郎と中村玉緒を親を持つ青年芸名は鴈龍ー 。
 劇場近くの盛り場は「伏見」「栄」や「錦」である。そこへ毎夜に三々五々、役者たちが繰り出す。役どころ別、楽屋別、年代別など組み合わせはさまざま。松平・川中のお人柄から醸成される親密・温和な人間関係が、ネオン街にまで浸透して、僕の若手の連れは赤羽根沙苗、森本とみやす、小林真由、友寄由香利・・・。
 以上が1月11日初日、2月19日千秋楽の僕の名古屋の日々好日。御園座は3月で閉館するが、数年後、新装再出発のメドが立つと言う。「それまでもつかな?」「何が?」「寿命の話だよ」僕は東宝現代劇75人会でやった「喜劇・隣人戦争」の、子役とのやりとりを思い出して、苦笑いする。

週刊ミュージック・リポート