新歩道橋874回

2014年5月8日更新


 
 宅急便でドサッと、妙に重めの荷物が届いた。差し出し人はスポニチ広告部の某部長。
 「はて?」
 といぶかりながら封を切ったら、これが仲町浩二という歌手のチラシA4サイズ総天然色豪華版が数十枚だから驚いた。
 「あれって、あの川渕君でしょ?スポニチの広告に居ながら歌謡界にちょくちょく顔を出して、大の歌好きと知ってはいたけど、とうとう歌手にしちまったんだ...」
 と、まあ、このごろよく聞かれる。実はその通りでチラシのコピーによれば
 「平成の大競作!ほのぼの演歌の決定版〝孫が来る!〟」
 「シニアの星、仲町浩二61才の歌手デビュー」
 という騒ぎ。
 「孫が来る!」という、とてもいい作品があった。2004年に出した五木ひろしのアルバム「おんなの絵本」に収められた1曲。その年のレコード大賞・ベストアルバム賞を受賞したから、ま、一仕事終わっていたのを昨年...。
 「シングルカットもしなかった。あのままじゃもったいない。みんなでやりましょうよ」
 と、仁科達男から声がかかった。ひところ僕がプロデューサー、彼がディレクターで五木の歌づくりを手伝った仲。「孫が来る!」が作詞家池田充男の孫かわいさの実話で、岡千秋が作曲、五木が歌った時は嬉し泣きしたこともよく知っていた。
 「よおしッ!」
 と気合いが入った僕が岡千秋の歌でCD化、それに中村光春、船橋浩二なんておじさんたちが呼応して、にわかに競作のにぎわいになった。
 そこで思いついたのが仲町こと川渕浩二である。少年時代からの歌手志望。あちこち首を突っ込んでチャンスを狙っていたのを、
 「やめとけ、五木ひろしは二人もいらないんだ」
 と、僕が押し止めていた経緯がある。五木に心酔しきっていて、歌はうまいがまるでそっくりさんだった。
 その川渕も60才。めでたくスポニチを定年になったが、シニアスタッフ、つまり嘱託として週に何日かは働いている。二足のわらじをはかせても問題はなさそうだから、
「70才で舞台の役者を始めた奴もいるんだから、61才でデビューってのも悪くはないぞ!」
 と、我が身を引き合いに出して声を掛けたら、一も二もなく乗ったものだ。
 送られて来たチラシを改めて見れば、仲町浩二が笑顔で夢見るような目線を左上方に投げている。ピンク系のスタンドカラーのシャツに、襟が濃淡ブルー二色のジャケットと、いっぱしプロ仕様だ。池田・岡コンビをわずらわして、2月に門前仲町でやった発表会以後、江東区春のぶんか祭りだの、平和島ポート場だのをはじめ、実演スケジュールが盛り沢山、スポニチ、毎日は言うにおよばず、活字露出もにぎやかで、YouTubeにはアップするわ、プロモーションビデオは作るわ...。
 ふるさとって奴は、ありがたいものだ。5月の大阪、7月の北海道キャンペーンも含めて、スケジュールどりは全部スポニチの友人たちによるチラシだってスポニチを印刷している東日印刷が格安で引き受け、この会社の夏の花火鑑賞会にも呼んでくれるそうな。
 「孫が来る!」を歌うもう一人船橋浩二は、元はクラウンの一期生で、将来を嘱望されていた男。事情があってその後はマイナー暮らしだが、地元の名古屋、大阪を中心に頑張っている。相当な歌巧者なのへ、
 「二人浩二でひと働きしてみろよ」
 と提案したら即準備にかかった。スナック飛び入りの草の根キャンペーンだがこのご時勢、そうそう歓迎されるはずもない。そこを強引に押し開けて...となるから。
 《仲町も巷の歌現場で、地獄を見るかもな...》
 そんな中で何を学び、何を身につけるか、彼の第二の人生というか、老後というかは次第に緊張感を増して来よう。スポニチが根城にする門前仲町を芸名に背負って、踏ん張る仲町のバネになるのが古巣スポニチの仲間の友情なのが頼もしい。

週刊ミュージック・リポート