新歩道橋1071回

2019年12月28日更新


 演歌をジャズ・アレンジで歌う。バックはピアノ、ギター、ベースのトリオ。曲目は「ちょうちんの花」「遣らずの雨」「豊後水道」で、川中美幸はまっ赤なドレスに思い切り長めのパーマネント・ヘア。遊び心たっぷりの演出に、ディナーショーの客はノリノリになる。12月8日のホテルオークラ。少し早めの忘年会、あるいはクリスマス・パーティーの気分だ。
 川中はこの日が誕生日。実年齢を肴に、老後のあれこれをジョークにする。新曲「笑売繁昌」をそのままに、この人のトークは定評通りで、爆笑、また爆笑の賑いを生む。関西出身ならではの諧謔サービスが行き届いて〝飾らない飾り方〟が身上だろうか。
 「ふたり酒」や「二輪草」「男の値打ち」など、おなじみのヒット曲は着物姿で決める。「女の一生汗の花」になれば、当然みたいに亡くなった母親久子さんの話になる。辛い時期を二人三脚で越えた相棒でもあるから、母をテーマにした16曲のアルバムも「おかあちゃんへ」がタイトルになっている。10月1日が祥月命日、その一周忌法要も済ませていて、少しは心がなごむのか、母の遺した入れ歯をカスタネットに見たてて、
「それがカタカタいってかわいいの」
 と、またジョークだ。
 ゲストは作曲家の弦哲也。「ふたり酒」で〝しあわせ演歌〟の元祖になった仲だから、お互いを「同志」と呼び「戦友」に例える。「とまり木迷い子」をデュエットしたあとは、弦が「北の旅人」「裏窓」と「天城越え」をギターの弾き語り。前2曲は石原裕次郎、美空ひばりに書いた作品で、
 「昭和の太陽のお二人に歌って貰えたことが、最高の思い出」
 とコメントすれば、会場の昭和育ちが、それぞれの青春を思い返すことになる。弦の自画像的作品「我、未だ旅の途中」に共感する男たちも多い。
 川中、弦ともに長い親交のある僕は、十分にリラックスして彼女と彼の歌、それに上物のワインに酔い、なかなかのディナーを賞味する。会場には二人の後援者たちの顔が揃う。その誰彼にあいさつをしながら、僕は知らず知らずのうちに知己が増えていることに気づく。縁につながるということは、心地よくありがたいものである。
 当然みたいにショーの打ち上げにも参加する。来年2月の明治座公演「フジヤマ〝夢の湯〟物語」の話になる。川中から声をかけて貰っての舞台役者、レギュラー出演してもう13年。近ごろ何とか格好がついて来たと言われたりする僕は、この席でも川中一座の老優のたたずまいだ。それにしても...と、共演する井上順や麻丘めぐみの件を持ち出す。井上は元スパイダースのメンバーで、リーダー田邊昭知と僕は昵懇の間柄である。麻丘は昔々、森昌子らとレコード大賞の最優秀新人賞を争ったプロダクションの陰に居た。二人とも僕が役者兼業であるとは知らぬはずだから相当に驚いているだろう。
 弦哲也は歌手の田村進二時代からの知り合い。仲町会のメンバーとして公私とものつき合いがあり、彼が作曲家協会の会長になったことを契機に、レコード大賞の制定委員に呼び戻された。〝昔の名前〟のお手伝いである。最近は杉本眞人、岡千秋、弦哲也、徳久広司と売れっ子たちの苗字を一字ずつ取った作曲ユニット杉岡弦徳の歌謡組曲「恋猫~猫とあたいとあの人と」をプロデュースしたばかり。おまけに弦の指名で、おでん屋台のおやじに扮し、歌った松本明子と曲間の小芝居までやった。この有様はCDになり12月テイチクから発売と来たからもう、アワワアワワ...である。
 打ち上げの席には弦の長男田村武也も居た。こちらはご存知路地裏ナキムシ楽団の座長たむらかかしで、今年10月、めでたく第10泣き(つまりは第10回)公演を成功させた。彼と僕は
 「統領!」「かかしさん!」
 と呼び合う数少ないレギュラー出演者。若者たちの熱気溢れる音楽と芝居に、ひたすら平均年齢を引き上げるお仲間になっている。この楽団は来年の令和2年5月に、小豆島へ遠征公演が決まっていて、その話も酒席の肴になった。これを書いている12月10日は、記念すべき10回公演の映像試写会が青山であるから、その分も浮き浮き...だ。
 それやこれやの年の瀬である。来年は84才、何回りめか数えるのも億劫なネズミ年の年男。それもこれもよくして下さるお仲間があっての幸せで、何よりもまず健康を維持! と心に決めて、この欄最終回のごあいさつ、ご愛読を深謝しております。
週刊ミュージック・リポート