2010年8月のマンスリーニュース

2010年9月28日更新


"なぞる昭和"が、遠くなる...。

 昭和テイストばやりである。世の中こんなふうで先が見えないせいか、文化各方面に回顧色が強い。 流行歌もご他聞にもれず、今月も氷川きよし、三門忠司ら、そんな色合いの作品が並んだ。
 カラオケ族を中心に、メーカーが購買層に見込んでいるのは高齢者である。彼や彼女たちは昭和の青春を生きて、個々の思い出にみんな昭和メロディーがからまっている。作詞・作曲する側も、昭和のよきころの体験者だ。
 歌う側と聞く側が、安心しきって浸ることのできる情感世界を共有する。そのもたれ合いの中で昭和がだんだん遠くなっていく――。

人生一度

人生一度

作詞:たかたかし
作曲:岡 千秋
唄:中村美律子

 歌手生活25周年の記念曲。といっても彼女が中村美律子を名乗って以後の年数。子供のころから盆踊りのやぐらにのぼり『河内音頭』を歌い、キャバレー回りの時期を持つから、芸歴はもう45周年――。
 その芸風にきっちり合わせた企画。浪曲調の聞かせどころをヤマ場に、大向こう受けの魅力を盛り込んだ。作曲は中村と滅法相性のいい岡千秋で「落葉みたいなアンアアアン...」あたりには、岡の語り口まで重なって聞こえる。中村の歌の差す手引く手とケレン味は、芸人さんの〝技〟であろうか!

雨降る波止場

雨降る波止場

作詞:仁井谷俊也
作曲:中村典正
唄:三門忠司

 歌い出しの歌詞1行分を聞けば、作品の狙いや三門の魅力のツボ、聞く側の気分までがちゃんと決まる。判りやすさは流行歌の、一つの利点だ。
 仁井谷の詞に中村の曲の組み合わせからして、昭和のあのころの懐かしさを加味する歌づくり。二人は余分なことなどは考えず、ソツなく期待に応えた。あのころ風味は歌唱にもある。とかく歌を抱え込み、感情移入過多なのが近ごろの傾向。三門はそれを離れ、声の艶、独特の節で、メロ本位に歌い回した。結果生まれたのは、宮史郎を上品にしたような上方流か!

涙の河

涙の河

作詞:吉岡 治
作曲:弦 哲也
唄:島津悦子

 吉岡治の遺作のひとつ。それかあらぬか曲も歌も、粛然と吉岡の語り口に合わせた歌い出し。おきゃんな島津の生真面目な顔が浮かぶ。5行詞で、それが激するのはサビの一個所だけ。その後に「夜泣きしてます、思い出が」と結ぶ1行が、いかにも吉岡らしい。

はぐれ舟

はぐれ舟

作詞:志賀大介
作曲:伊藤雪彦
唄:大川栄策

 とりたてて新鮮味はない。しかし、新しくなければ良くないという世界でもない。志賀大介がきっちりと、抑制の利いた詞を書いた。それに伊藤雪彦がベテランらしい曲のつけ方をし、大川がマイペースで歌った。3人の手練者の技が揃った、伝統的なタイプの佳作だ。

虹色のバイヨン

虹色のバイヨン

作詞:水木れいじ
作曲:水森英夫
唄:氷川きよし

 「バイヨンねェ」
とニヤリとする。
いきなり戦後に戻った気分、生田恵子なんて歌手名を思い出す。それを今、氷川でやるのが制作陣の野心や快感なのか? ファン層は昭和の屈託を生きた熟女たち。それと氷川の屈託のなさが、うまくハモるのがミソだろう。

海の兄弟

海の兄弟

作詞:原 譲二
作曲:原 譲二
唄:北島三郎/鳥羽一郎

 やたら濃いめのデュエットである。北島があの節で歌い、鳥羽があの節で従う。声や息づかい、思い入れが1+1=3くらいの色を作る。2人が独自の節を持つから、ユニゾンの個所には微妙なズレが生じる。それもこれもこの作品の〝売り〟なのだろう。

女のしぐれ酒

女のしぐれ酒

作詞:たかたかし
作曲:新井利昌
唄:花咲ゆき美

 声を張るサビあたり、花咲の歌が聞くこちらへ、突っ込んで来る。声そのものに勢いがあるということだ。その分抑え気味の歌い出しとのバランスが、ラフに感じられる。それも本人の若さと、好意的に受けとめよう。新人だもの、妙にまとまるよりはずっといい。

倖せ夢さぐり

倖せ夢さぐり

作詞:たかたかし
作曲:水森英夫
唄:三代目コロムビア・ローズ

 男のふるさとへ誘われてついて行き「わたしの桜も咲きました」と、歌の主人公は何とも屈託がない。そんなたかたかしの詞に、水森英夫がおおらかに、メジャーの曲をつけた。惹句によれば〝ほのぼの倖せ演歌〟で、ローズの歌は詞、曲に、馬なりで行くしかないか。

三陸風みなと

三陸風みなと

作詞:坂口照幸
作曲:徳久広司
唄:山口ひろみ

 坂口照幸の詞が各コーラス歌い出しの2行に思いを込める。愚直に、坂口流の努力だ。それに徳久広司が浪曲っぽいメロをつけた。近ごろこの人も、いろいろとトライする。山口の歌は声にキャラがあって、小柄すっきり勝気ふう。それが一心に情の色を探した。

母

作詞:仁井谷俊也
作曲:原 譲二
唄:北島三郎

 流行歌の永遠のテーマのひとつ。男たちの永遠の思いもかかっていよう。そんな「母」を北島流にやるとこうなる。仁井谷俊也の詞の内容はごく一般的だが、北島の声と節がそれを独自のものにした。一文字タイトルのレパートリー、これで何曲めになるだろう?

小雪の酒場

小雪の酒場

作詞:三浦康照
作曲:叶 弦大
唄:冠 二郎

 1番の歌詞、歌い出し2行分でドキッとした。高野公男の『男の友情』を思い出したせいだ。叶弦大の曲も当然、そこを語りで処理したからなおさら。もっとも歌う冠には、それやこれやは関係なし。彼流の男の心情ものに仕立てたが、少しベタついたかな?

我が娘へ

我が娘へ

作詞:吉 幾三
作曲:吉 幾三
唄:山川 豊

 思いがけない色あいの作品だ。吉幾三の詞・曲が何だか彼のものらしくなく、山川の歌も少々、彼らしくない。山川の歌の軽みで吉の粘着力が薄れたか、そんな山川を吉が当て込んだからこういう曲になったのか。とにかく淡々と軽めで、妙に沁みる歌である。

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