新歩道橋

2023年5月13日更新


新歩道橋1148回

 視界の中にボンヤリと猫が居る。眼をこらすと、愛猫の風(ふう)である。こちらは抗がん剤の苦痛と戦っているというのに、相変わらずの惰眠かと、もう一度眼をこらすと、前足を十文字に組み合わせている。これがコイツの粋なポーズなのだ。 風の向こうに海が見える。相模湾である。その向こうに富士山―そん・・・

新歩道橋1147回

 ふっとなぜか、涙が出そうになる〝いい歌〟と出っくわすことがある。理由を考えてみる。①時代背景がはっきりしている②いつまで経っても忘れられない体験そのものが詩に生きる③その光景と向き合う主人公の視線が一途だ④歌表現も率直で、余分な感情移入がない⑤そういう歌唱を可能にする、すずやかな玉のよ・・・

新歩道橋1146回

 試合前に選手たちを集めて語るメッセージを、近ごろでは「声出し」というらしいが、WBC決勝戦直前の大谷翔平投手の発言は、そんな生易しいものではなかった。 「憧れるのをやめましょう。トラウトが居て、ベッツが居て、誰もが聞いている選手が居るが、僕らはトップになるために来た。今日一日だけは彼ら・・・

新歩道橋1145回

 過日、秋元順子が東京・丸の内のコットンクラブで歌った。ジャズを中心にした曲ぞろえがお手のもの、長いキャリアで身につけた〝ゆとり〟が窺えるステージになる。トークの多くに付くのは駄ジャレのオチで、ベテランの風格と下町おばさんの庶民性が交錯する。ファンにとってはその落差が楽しいらしく、「さあ・・・

新歩道橋1144回

 「花魁」と書けるかな? と思い、やっぱり不安になって辞書をひいた。「おいらん」の表示だが、その思い切り派手な衣装を着た丘みどりが、視線をじっとこちらに投げている。「椿姫咲いた」のジャケット、タイトルもインパクトが強い。 《ふむ、勢いに乗っての異色作か…》 と合点しながら、歌詞カードを見・・・

新歩道橋1143回

  作詞家もず唱平は沖縄に居る。当初は大阪が寒いうちだけと言っていたが、昨今はどっぷりあちらで、活動の拠点とした気配だ。昨年の秋「沖縄発ニューレーベル」を標榜する会社UTADAMAMUSICが生まれた。第一作がもずが作詞した「さっちゃんの聴診器」で、弟子の高橋樺子が歌って今年1月の発売。・・・

新歩道橋1142回

  《結局、俺は「酒」が好きだった訳じゃないんだ》 と、今さらながら気がついた。スポーツニッポン新聞社勤めからその後の雑文屋ぐらしは、月曜から金曜まで、仕事先の方々や仲間内と、毎晩酒を飲んでいた。それがここ3年ほどのコロナ自粛である。加齢による不具合があちこちに出て来て、外出、外食も控え・・・

新歩道橋1141回

 《いいじゃないか、おしゃれなポップス風味。このほどの良さなら、彼女の演歌ばなれも歓迎だな…》 出来たてほやほやの川中美幸の新曲「冬列車」を聴いての感想だ。作詞、作曲、編曲が田村武也。ほどの良さは、まず作品にあり、川中の歌唱がそれに寄り添っている。 〽もうどのくらい眠っていたかしら、カタ・・・

新歩道橋1140回

《そうか、これが今年最後の大仕事の証か…》 12月、眼の前に積まれた本に、感慨がひとしおである。栃木の下野新聞社が出してくれた「ロマンの鬼船村徹~私淑五十年小西良太郎」だが、船村の故郷のこの新聞に、2年ほど連載したものに加筆。内容とにらみ合わせて、船村語録を50近く添えた。昭和38年夏、・・・

新歩道橋1139回

 山形の天童市に出向く。例年の「天童はな駒歌謡祭」の審査で、歌どころ東北のノド自慢70余名を聞く。このところ体調不良をかこって出歩かないが、わがままを言ってはいられない。佐藤千夜子杯全国大会から引き続き10数年の審査委員長役。地元の高僧矢吹海慶師も待っている。その滋味と諧謔に触れる方が、・・・