社会的視野と年季の技量と
『一本杉』以来、久々に『いっぽんの松』か...なんて、下手な冗談を言うのはよそう。作曲生活50年超の船村徹の、社会を見守る眼と感受性と即応性。それが時事ソングの『いっぽんの松』を、心に響く歌にした。
年季の芸や技、侮るべからずである。それを志賀大介・作詞、村沢良介・作曲の『宗谷海峡』にも感じた。時代色と流行歌を突き合わせて、僕は長く新しさを試聴のメドにして来たが、決してそれだけではない。それにしても、期待の新勢力がなかなか出て来ないねえ。
2011年11月のマンスリーニュース
2012年1月11日更新社会的視野と年季の技量と
『一本杉』以来、久々に『いっぽんの松』か...なんて、下手な冗談を言うのはよそう。作曲生活50年超の船村徹の、社会を見守る眼と感受性と即応性。それが時事ソングの『いっぽんの松』を、心に響く歌にした。
年季の芸や技、侮るべからずである。それを志賀大介・作詞、村沢良介・作曲の『宗谷海峡』にも感じた。時代色と流行歌を突き合わせて、僕は長く新しさを試聴のメドにして来たが、決してそれだけではない。それにしても、期待の新勢力がなかなか出て来ないねえ。
いっぽんの松
作詞:喜多條忠 3月、陸前高田で1本だけ防潮林の松が残った。350年前に植えられたものが、あの東日本大震災に耐えた。そのニュースに胸うたれた船村徹が「書いてみないか」と、喜多條忠に作詞を促す。出来上がった作品に「是非!」と名乗りを上げたのが千 ...という順番。
松は復旧復興のシンボルになり、この歌は東北の人々の再起を、後押しする祈りに通じるのだろう。ゆったりめの抒情的な曲を、千は上を向いて、明るめに歌っている。彼の歌声に色濃い東北の匂いが、北国の人々の粘り強い生き方を示すようにも聴こえる。
命果てるまで
作詞:麻こよみ いつのころからか、この時期にはデュエットものがあちこちから登場する。忘年会シーズンをあて込んで...が常だったが、国難のこんな年でもそれは変わらないと見える。
もう一つ近ごろの流行は、作曲家たちの歌手兼業。この作品では宮下健治がそれに加わった。くぐもりがちの枯れた声味で、けっこう演歌臭の強い歌い回し。それが岡ゆう子に聞かせどころ、決めどころを譲った形で、彼女の歌をサポートしているのが面白い。ネタは裏町に仮所帯を持った貧しい男女の物語。だが、タイトルほどに深刻ではない。
夫婦絆
作詞:祝部禧丸家族の絆、妻への感謝の歌の、海の男版。2年前に出した作品が、巷で歌い継がれてもう一度!の出番が来た。前回とは1番と3番の歌詞が入れ替わっているという。息子2人と妻と孫の話からいきなり入って、確かにこの方がリアリティも説得力もあるか!
ふたつ星
作詞:松井五郎たまたまの再会、もうちょっと歩こうか...となった男女。過去に何があったのか、今互いがどうしているのかなどには、全く触れない。松井五郎と弦哲也が書いた、おとなのデュエット曲。都と五木だからこそ成立する世界で、それだからこそ、味わいも独特だ。
男酔い
作詞:喜多條忠歌の吉、詞の喜多條忠、曲の杉本眞人の足並みが揃った。「男はいつも大きくて 男はいつも馬鹿だから...」の歌詞2行がそれを示す。前半は願望、後半は現実を言い当てていて、当方は共感のハハハハ...だ。各節の歌い納めの「男酔い」を吉がガツンと歌い切った。
宗谷海峡
作詞:志賀大介ベテランの手練のほどが鮮やか。志賀大介の詞、村沢良介の曲は双方、すっきりと言い切れて余分なゆるみたるみがない。それをまた、木原の美声が気概をこめて歌い切った。とりたてて新味はないが、三位一体、古風でもいいものはいいのだ...と感じ入った。
うわさ雨
作詞:鈴木紀代「ノリの良い2ビート演歌です」と惹句にある。ブンチャブンチャの気分のよさを、近ごろはそう表現するらしい。長保の歌もすっかり 〝その気〟の気配。おきゃんな口振りこみで、聴く側へ攻め寄ってくる。揺れながらしなる着物姿が、 眼に見えるようだ。
夫婦善哉
作詞:下地亜記子歌もかわりばんこ、2箇所にあるセリフもかわりばんこ。男女が顔見合わせながら、嬉しそうに歌うにはもって来いの作品。本家はこれも芝居っ気ではひけを取らない鏡と真木の顔合わせと来た。一部の人にむずかしいのは大阪弁だが、ま、ほどほどでもいいか!
名瀬の恋風
作詞:せとさだし藤田まさと賞を記念した新作コンクールのグランプリ作品。コツコツと地道に歌を書いて来た人のものらしい、律儀さが垣間見える。こういう歌がこういうふうに、脚光を浴びるのはとてもいいことだろう。その意義を感じてか、野中の歌の仕上がりも、慎重で律儀だ。
東京の枯葉~ニューバージョン
作詞:夏海裕子歌を語りながら、次第に激していく。息づかいが切迫し、歌声がいじらしいくらいの艶を帯びる。そこがチェウニの得難い魅力で、やっぱり夏海裕子の詞、杉本眞人の曲がはまる。大きくも歌える曲を小ぶりに歌う妙。いいものは何遍でも出せばいいじゃないか!