岡千秋、改めての〝初心〟に感じ入る
「このごろ、妙に忙しいんだわァ」と、岡千秋が嬉しそうにチョビ髭をそよがせる。確かに今月など十一曲中四曲も書いているから、ご同慶のいたりだ。上杉には歌の後半、たたみ込まずにゆったりめの演出。多岐川は、男唄ふう骨太メロで決め、山口にはアッと驚かす気のブルース系を提供、真咲は抒情派ふうで、彼女の特色を生かしている。
ただ単に、多い注文をこなすのに飽き足りず、彼なりの工夫でそれぞれの色を変えようとする。岡の、中年の初心を見る気がする。
2013年5月のマンスリーニュース
2013年10月2日更新岡千秋、改めての〝初心〟に感じ入る
「このごろ、妙に忙しいんだわァ」と、岡千秋が嬉しそうにチョビ髭をそよがせる。確かに今月など十一曲中四曲も書いているから、ご同慶のいたりだ。上杉には歌の後半、たたみ込まずにゆったりめの演出。多岐川は、男唄ふう骨太メロで決め、山口にはアッと驚かす気のブルース系を提供、真咲は抒情派ふうで、彼女の特色を生かしている。
ただ単に、多い注文をこなすのに飽き足りず、彼なりの工夫でそれぞれの色を変えようとする。岡の、中年の初心を見る気がする。
~世界遺産平泉を唄う~雪の細道
作詞:喜多條忠 歌声が芯を食っている。これは歌が伝える気分のよさの、重要な一つだ。水道の蛇口をいっぱいに開くと、水が勢いよくほとばしる感じに似ている。理屈抜きのいい気分、開放感の一種だろうか。
水田は水森英夫のメロディーを軸に歌って、そんな境地を手に入れた。歌詞の一語々々につかまらないから、歌唱でシナを作る個所もない。結果、感情移入が率直になった。
喜多條忠の詞は、女の未練をあれこれ書き募っている。それなのに歌には、妙なのびのび感がある。水森流の勝ちだろうか?
黒髪しぐれ
作詞:仁井谷俊也 実にソツのない鏡節である。一番の詞、仁井谷俊也がいろんな名詞コトバを並べて、ゴツゴツしているにもかかわらず...だ。一コーラス、大づかみに感情を捉えて、コトバの一つ一つをていねいに、その流れに添わせている。だから表現に淀みがない。コトバの凹凸をならしてしまうのだ。
そんな作業を鏡は、いい気分そうな仕立て方でやる。一番の歌い納め「...貴船川」の「わ」の歌い伸ばしとフェイドアウトぶりにその一例がある。二番の詞だが、最後の「裏木戸を」は「へ」の方が納まる気がした。
嫁泣き岬
作詞:池田充男 夫の出漁を岬で見送った新妻が、無事を祈っている。書き尽くされ手垢がついた題材に、池田充男が物語性を加えて巧みだ。 「三日三晩をのみ明かし」とか「小町娘」
「弁天祭」などを、さりげなくちりばめたベテランの技。上杉はそれを女っぽく歌えた。
酒ごころ
作詞:久仁京介 ヨンジャ久しぶりの〝ワサビ味〟である。張り歌の
〝キムチ味〟に対して、小さく歌って大きく伝えようとするこのタイプを、彼女はそう名づける。ひところの都はるみを思わせる路線。粘着力がこの人の持ち味で、歌の「情感」が「情念」
に強まるのが面白い。
北の雪船
作詞:池田充男男唄仕立て、四行詞ものプラス一言の寸法で、岡千秋の曲が、お得意の起承転結を聞かせる。鉈でバサッと切った樹の、木目がしっかり見える心地。それが多岐川の歌をスカッとさせた。シンプル・イズ・ベスト、彼女はデビュー二五周年にいい作品に出会えた。
優しい女に会いたい夜は
作詞:紙中礼子この節、珍しいタイトルで、これだけで聞いてみたくなる。「優しい女」「一途な女」「詫びたい女」を三コーラスの主人公に見立てた詞ともども、紙中礼子のお手柄か。花岡優平の曲を矢野立美がグレンミラーふう編曲...と、趣向あれこれに、山川が嬉しそうに乗った。
年上の女やけれど
作詞:伊藤美和 歌い出し、のっけからブルース系である。「えっ、岡千秋やろ?」「あの、山口ひろみやろ?」と、意表の衝かれ方も浪花弁になる。前田俊明の編曲まで、歌をあおり立てて
〝その気〟だ。岡の大阪暮らし一年半も、無駄にはなっていないかな...と、僕はニヤニヤする。
懺悔のブルース
作詞:田久保真見ひところの水原弘や青江三奈を思い出させるブルース歌謡。確かにこの人のあの声と息づかい、妖しげなゆすり方には似合いだろう。昨今、誰もやっていない路線で、スキマ狙いの妙もある。田久保真見の詞は、彼女らしさの語彙と表現が山盛りで、いやはやどうも...。
しぐれの海峡
作詞:久仁京介オーソドックスな〝船もの〟のリズムとメロディーの起伏。これもかつての都はるみふうを、徳久広司の曲が狙ったか。立樹の歌は、しっかりした中、低音を土台に、高音で哀切感をゆすった。歌が聞く側に詰め寄る手際は、この人のシコシコ二五周年の成果だろう。
哀愁・嵯峨野路
作詞:仁井谷俊也もうベテランの域に達した〝おっとり型〟歌手。その味を浮かす抒情系なら、題材は京都ものと、制作陣は考えたのだろう。気合いが入ってか、仁井谷俊也の詞は各節にあれこれ〝らしさ〟フレーズを詰め込んだ。それを岡千秋が、おっとり系メロでいなした。