秋へ、なかなかの品揃えです
夏から秋へ、いい季節をめざして意欲作が並ぶのがこの時期。長山洋子の『もう一度...子守歌』に驚き、天童よしみの『孔雀貝の歌』に新鮮味を感じ、森昌子の『はぐれどり』に再起の成就を祝いたい気分になった。
それにしても、天候異常で不穏な夏が、まだ当分は続きそう。自然の猛威に、歌ごころがはぐれなければいいが...と、余分な心配をする。そのせいで、訴求力強めの楽曲の名を挙げたが、その他も歌手の魅力にプラスアルファして、今月は、なかなかの品揃えになっている。
2013年8月のマンスリーニュース
2013年11月22日更新秋へ、なかなかの品揃えです
夏から秋へ、いい季節をめざして意欲作が並ぶのがこの時期。長山洋子の『もう一度...子守歌』に驚き、天童よしみの『孔雀貝の歌』に新鮮味を感じ、森昌子の『はぐれどり』に再起の成就を祝いたい気分になった。
それにしても、天候異常で不穏な夏が、まだ当分は続きそう。自然の猛威に、歌ごころがはぐれなければいいが...と、余分な心配をする。そのせいで、訴求力強めの楽曲の名を挙げたが、その他も歌手の魅力にプラスアルファして、今月は、なかなかの品揃えになっている。
哀愁の奥出雲
作詞:佐藤史郎 曲の気分を大づかみに〝泣き歌〟と捉えて、感情移入は細部に立ち入らない。むしろ弦哲也の曲の起伏とテンポの、流れに乗り、情感に添おうとする。
そんなふうに聞こえるのが、清水の歌。高音部の声をしぼり気味に抑えて、響かせ方や整え方の注意に工夫が見える。
一般論だが、歌のつくり方はおおむね二種類。作品の思いに自分の心情を重ねて吐露するタイプと、技巧を用いて作品の思いを伝える様式派だ。まだ七枚めのシングルだが、清水は後者に属する方向性を持っていそうだ。
もう一度...子守歌
作詞:鈴木紀代 北向きの枕、胸に組んだ両手、顔を覆う白い布...。明らかにこれは、安置された死者の姿だ。鈴木紀代の詞は思い切ったもので、そんな要素をスリーコーラスの歌詞それぞれの歌い出しに、さらっと並べた。
聴く側がびっくり仰天せずにすむのは、状況を見詰める視線が、母を見送る娘の優しさと温かさ、感謝の気持を表しているせいだろう。
子を持つ親になって、よく判る母親の気持がテーマ。長山のプライベートにも重なるお話だが、大胆にして細心の作品と言えようか。
あなたは雪になりました
作詞:松井五郎一番の歌い出し、歌詞二行分の雰囲気で「ほほう!」になる。小金沢の語り口が優しくやわらかな包容力を持つせいか。ムード歌謡と抒情的フォークソングを合流させたような松井五郎の詞、幸耕平の曲。いろんな曲を歌う小金沢の魅力の、一つの側面だろう。
北の浜唄
作詞:下地亜記子酔いしれた男と女が主人公。浜酒場を舞台に、書き込まれる冬の海の背景や、それらしい小道具のあれこれ。下地亜記子の詞は、ドラマを見守る目の暖かさと演出家の心くばりをにじませて、なかなかである。昨今の歌状況の中でねばる、彼女らしい根気強さと熱意が、貴い。
富士山
作詞:新井満祝・世界遺産登録、『千の風になって』の新井満の作詞・作曲、あの千住明の編曲で歌うのが森...である。う~む、来るべきものが来たか!と、CDに向かう気分は、そこそこ複雑。しかし作品は、出来のいい叙情歌として、そんな後ろ向きの懸念を払拭、堂々としていた。
父娘酒(おやこざけ)
作詞:多野亮嫁ぐ日を控えた娘と父が、酒酌み交わすひととき。歌詞はかけ合いの形で3コーラス、感謝を口にする娘と、しきりにテレる父を描く。それを金田の歌が一人デュエットに仕立てる。注意して聞けば彼女が、娘と父の年齢や語り口を、歌い分けているのに気づく。
孔雀貝の歌
作詞:比嘉栄昇人が生きていくことの、悲しみや喜び、純な心を全うしたいと祈るような気持を歌う。孔雀貝に託した比嘉栄昇の詞と曲、編曲はBEGIN。様式派の天童の歌は、作品の様変わりに触発されてか、吐露タイプの訴え方に変わる。形にはまらぬ新鮮さが得難い。
海猫
作詞:荒木とよひさ2コーラス、歌い出しの三行に、作詞荒木とよひさが趣向をこらそうとした。九行もある詞を作曲の弦哲也が、五つのブロックを積み重ねる曲づくりで応じる。言って見れば長尺もの歌謡曲。神野はそのうねりを、自信に満ちた歌唱で乗り切った。
寿(ことぶき)
作詞:原文彦原文彦の詞、弦哲也の曲は、五行詞ものだが、三行めに関所がある。前の二行で父親の心情がしみじみとし、三行めの高揚を境に以後が祝い歌のにぎわいに転じるからだ。和田の歌は委細承知のそつのなさ。カラオケで歌う向きは、三行め以降を笑顔でやってみるといい。
秋月の女
(真紅い薔薇)
傷心の女ごころ旅唄。仁井谷俊也の詞、伊藤雪彦の曲は定石どおりで、前田俊明の編曲もそれらしい飾りつけ。原田は得たりや応!の、ツボを心得た歌唱ぶりだ。四人四様の手なれた仕事が、巧まずして一つにまとまる。保守派のファンが安心して愛唱しそうだ。
はぐれどり
作詞:さわだすずこ『哀しみ本線日本海』から、もう何年が過ぎたのだろう。あの時期、哀愁が若かった森が、同じ路線のこの曲で、女の人生の苦渋を伝える。中・低音、太めの地声に情感が濃いめで、森のその後の人生の波乱が、いい形で身につき、歌の味ににじむようで好感を持った。