「張り歌」と「抑え歌」の面白さ
おおざっぱに言って歌は、大声で張れば声そのものの持ち味が前面に出る。抑え気味の息まじりにすれば、情感がにじみやすくなる。歌手たちは双方を使い分ける。曲によってどちらを軸にするか、あるいは巧みに、一曲の中で双方を応用、メリハリをつけるか。
レコーディングは抑え気味、コンサートは張り歌...という分け方もある。CDは聞く側と1対1、コンサートは大勢の客相手のせい。そんな事を考えながら歌を聞くのも、一興だろう。
2014年5月のマンスリーニュース
2014年7月27日更新「張り歌」と「抑え歌」の面白さ
おおざっぱに言って歌は、大声で張れば声そのものの持ち味が前面に出る。抑え気味の息まじりにすれば、情感がにじみやすくなる。歌手たちは双方を使い分ける。曲によってどちらを軸にするか、あるいは巧みに、一曲の中で双方を応用、メリハリをつけるか。
レコーディングは抑え気味、コンサートは張り歌...という分け方もある。CDは聞く側と1対1、コンサートは大勢の客相手のせい。そんな事を考えながら歌を聞くのも、一興だろう。
浮草の川
作詞:荒木とよひさ 昨年の渋谷公会堂リサイタルが、圧巻だった。ほとんどの曲がめいっぱいの張り歌。作品ごとの情趣よりは、神野の・ひと・そのものを突きつける凄味があった。その後アメリカのライブハウスで歌う。同じ意図で日本人の心意気と魅力を全開放したのだろう。
一転してこの作品は、情緒狙いの抑え歌である。荒木とよひさの詞、弦哲也の曲の2ハーフ。酒場女が、これが最後と思い定めた恋にすがる胸中を訴える。歌謡曲寄りの演歌だが、演歌は「演じる歌」とも合点した。7行詩をうまくまとめた弦のメロディがきれいだ。
夜泣き鳥
作詞:田久保真見 張り歌はときおり、作品を嘘っぽくする。詞が描く心情を上すべりして、声味とのバランスが悪くなるせい。角川にはこれまで、それも承知でガンガン行きたがる癖があった。ところが―。
ちょいとしたモデルチェンジである。八分目くらいの声で軽めに、今回はこの曲を処理した。鼻歌みたいな気安さがかえって、心細げな女心をうまく表現する。抑え歌でも、声にしっかりと芯が作れていなければいけない好例だろう。歌い出しの歌詞2行分に、岡千秋が意表を衝くメロディーを書いて、角川をのびのびとさせた。
一夜宿
作詞:吉 幾三粘着力も含めて、吉幾三のメロディには独特の・口調・がある。他人のための曲を書いても、それは変わらない。香西はそれをごく丁寧に歌って、彼女の口調の歌に仕立て直した。作品を小さく歌って大きく育てる。香西は抑え歌の妙を十分に心得ている。
恋の津軽十三湖
作詞:宮内たけし五所川原にある長円寺の、鐘の伝説に材を取ったそうだが、作品にはさほどの物語性はない。津軽三味線のテンポとリズムに乗せた、会えぬ男女の恋唄。長山はその哀切をはずみ加減に歌う。細めの声だが、どうしならせて情趣を盛るかという、工夫が聞こえる。
高尾山
作詞:いではく高尾山に擬して、ここまで人生訓を展開するか!と、作詞いではくにシャッポを脱ぐ。それに原譲二が曲をつけて、北島の歌はおなじみの世界だ。要所を突く唱法、息づかいと節回しが彼流の説法ソングだが、聞いてる僕と同い年、どうやら枯淡の境地か?
淡墨桜
作詞:瀬戸内かおる地道だが脇目もふらずに、瀬戸内かおるの詞、岸本健介の曲、夏木の歌のトリオが踏ん張っている。三者三様の・ほどのよさ・が三位一体なのはいつも通り。目先を変えず奇をてらわす、一点突破を目指す一生懸命さに、僕はう~んと唸った。
くすり指
作詞:田久保真見ムード歌謡っぽく淡々と...が、いつもの岩出の歌い方。思い入れや感情移入が薄めで、いわば「口先歌の軽薄さ」が、この人の個性なのか。2番の歌詞に「ふと」が出て来る。僕も永井裕子の歌づくりで体験したが、この2文字、メロに乗せるのは難しいねぇ。
居酒屋ほたる
作詞:里村龍一里村龍一の詞、徳久広司の曲で女の酒場ひとり歌。オーソドックスなやつを、上杉がこれまたオーソドックスに歌う。3番の歌詞に「空のボトルに花を挿し 飾ってあの日へ旅をする」とある。「旅をする」の含蓄を、里村君、なかなかやるねェとほめたくなった。
泣きまね
作詞:田久保真見声が途切れがちでも、息が歌っているのがこの人のハスキーさ加減。だから口調がトツトツのまま、にじり寄る情感が生まれる。それに似合いなのは、田久保真見の詞と田尾将実の曲の、繰り言みたいな言い募り方。一カ所どこかで、吹っ切れたくもなるが...。
みちづれの花
作詞:仁井谷俊也 男は結局みんな、弱虫なのかもしれない。そう思うのは、藤原の歌声があたたかく、ひどく優しげなせいだ。尽くしてくれる女性へ、感謝を語る男唄は、多少意気がるものだが、歌詞にはそれもない。前奏だけが芸道ソングみたいに、力んでみせてはいるのだが。
忍野八海かくれ里
作詞:仁井谷俊也岡千秋の曲は歌い出しの歌詞の2行分、叙情歌的にのびのびして、次の2行分でたたみ込み、演歌にする。かくれ里の忍び恋を、泣き歌にはしたくないせいか。真咲の穏やかな声がそれを形にした。相当長いキャリアの人だが、相変わらずおっとりしている。