いい歌が出揃った。こう来なくちゃ!
6月、なかなかの作品が揃って、聴いていて気分がいい。作詞、作曲家の仕事ぶりや歌手の個性の生き方がポイントだ。
詞は吉田旺の推敲の痕跡が好ましく、たきのえいじのこのところの変化が頼もしい。曲は相変わらず弦哲也の打率が高く、歌では長山洋子がそれなりの境地に到達、作品によって川野夏美の進境が目立つ。チェウニ、清水博正、ジェロが独自性を示し、水沢明美の声味も類を見ない。低迷傾向が長い歌世界だが、突破口はやはり"いい歌"でしかあるまい。
2016年5月のマンスリーニュース
2016年6月23日更新いい歌が出揃った。こう来なくちゃ!
6月、なかなかの作品が揃って、聴いていて気分がいい。作詞、作曲家の仕事ぶりや歌手の個性の生き方がポイントだ。
詞は吉田旺の推敲の痕跡が好ましく、たきのえいじのこのところの変化が頼もしい。曲は相変わらず弦哲也の打率が高く、歌では長山洋子がそれなりの境地に到達、作品によって川野夏美の進境が目立つ。チェウニ、清水博正、ジェロが独自性を示し、水沢明美の声味も類を見ない。低迷傾向が長い歌世界だが、突破口はやはり"いい歌"でしかあるまい。
ふれ逢い橋
作詞:たかたかし 《ほほう!》と感じ入った。歌の舞台は深川あたり。住む人は優しく、ぬくもりに満ちている。そこへ、幼な子を抱えて逃げ込んだ女が主人公。癒され、励まされて生きていくさまが描かれる。
歌の情と節回しが細やかなのだ。歌いながら語る歌声が、言葉ひとつひとつを、粒立てている。歌詞の語尾までゆるがせにせず、思いが揺れながら、次の行の頭の情感につながる。
民謡からアイドルポップスを経て演歌に転じた長山洋子は、彼女なりの艶歌へ到達した。市川昭介の遺作が、長山をそこへ導いたか。
焰歌(えんか)
作詞:吉田旺 体調が芳しくなく、人前に出ることが絶えてない作詞家吉田旺が、歌づくりでは健在であることを喜びたい。不倫の恋の女主人公の心情を描く5行詞3節。まるで艶歌のジグソーパズルみたいに、意味深な言葉を巧みにはめ込んで、古風だがゆるみたるみがない。
吉田流のそんないい詞に、曲をつけたのは船村徹、アレンジは蔦将包で、こちらもそれぞれ、彼ららしさがなかなか。
諦めて、それだから一途に燃える女心を歌った西方裕之は、ていねいさに心を砕いた。とても一気には歌えなかったのだろう。
小樽絶唱
作詞:たきのえいじ歯切れがよくなったたきのえいじの詞を、押し切るように清水博正が歌う。彼一流の声の繰り方で、うねる歌唱が独特のフィーリングだ。力のあるサビのメロディーで、清水を一回り大きくしたのは弦哲也の曲。南郷達也の編曲が、ドラマチックに清水をあおった。
九官鳥
作詞:仁井谷俊也歌い出しの歌詞2行分の歌唱が、息づかいも含めてすっかりおとな。穏やかめの6行から、一気にヤマを張った後半3行分に、切迫感が濃い。作品への"入り方"が、川野夏美のこのところの進境を示す。詞よりは曲の起伏が軸の歌唱。本人も達成感を感じていよう。
しぐれ坂
作詞:下地亜記子歌詞1行目の最後の言葉の"置き方"がいい。だから2行目の頭の"入り方"が生きた。歌というよりは、セリフに似た呼吸と語り口。それが切羽づまるのが、一番と二番の間にあるセリフだろうか。真木柚布子は、作品を"演じる"ことに長けた歌手と合点がいく。
うぬぼれ
作詞:鈴木紀代一番で言えば「抱いて」が5回も出て来る歌詞の中盤は、影山時則の曲がムード歌謡ふうになる。そこを委細かまわず、ジェロの歌唱は一気に行く。"本格演歌"を全力投球...の気構えがあってのことか。デビュー8年め、地力のある彼の"どうだ顔"も見えた。
因幡なさけ唄
作詞:水木れいじもともと歌味が"ハレ"の人である。だから、艶歌的湿度は薄めで、歌があけすけな口調に聞える。それが浮草ぐらしの女の心情を、かわいく居直らせた。主人公がうじうじしない。歌はもたれない。作品に似合いのこの人の個性。中村典正はこんな曲も書くんだ。
かすみ草エレジー
作詞:田久保真見田久保真見の詞は、もともと乾き気味の感触でじめつかない。山崎ハコの曲はひなびたいじらしさの情感で濡れる。その二色に化学変化を起こさせるとどうなる?の試みが見える作品。あさみちゆきの歌で、結果、かすみ草のはかなさと強さが交錯した。