作曲家の意気と力技を買う
新年、今月の10曲はいわば〝初荷〟だ。それに今年の流行歌の流れが見える。共通点はスケール大きめの歌謡曲。タイトルに「絶唱」の2字が2曲も並んでいる。
目立つのは、作曲家勢の意気込み。弦哲也の3曲が三色なのをはじめ、水森英夫が天童と真っ向勝負、岡千秋が新境地を狙い、小田純平は唯我独尊、船村徹はさすがの筆致...。
歌詞のスケール不足をメロディーで超える例もあり、作詞家勢の奮起が待たれる。作曲家を欲求不満にしちゃいけませんヨ。
2017年1月のマンスリーニュース
2017年2月21日更新作曲家の意気と力技を買う
新年、今月の10曲はいわば〝初荷〟だ。それに今年の流行歌の流れが見える。共通点はスケール大きめの歌謡曲。タイトルに「絶唱」の2字が2曲も並んでいる。
目立つのは、作曲家勢の意気込み。弦哲也の3曲が三色なのをはじめ、水森英夫が天童と真っ向勝負、岡千秋が新境地を狙い、小田純平は唯我独尊、船村徹はさすがの筆致...。
歌詞のスケール不足をメロディーで超える例もあり、作詞家勢の奮起が待たれる。作曲家を欲求不満にしちゃいけませんヨ。
夕月おけさ
作詞:水木れいじ 《相当に、気合が入っているな》 と思う。その上で、頑張り方が過剰にならず、その人〝らしさ〟攻撃的なら、かなりの訴求力と説得力が生まれる。天童よしみ45周年、作曲の水森英夫と久々の組合わせが決まり、妙な例えだが人馬一体の感がある。
ガツンと浪曲調の歌い出し、歌詞2行分から歌唱の押し引きの妙がある。次の1行をブリッジにして、続く2行分は啖呵のニュアンス。最後に調子を変えて、佐渡おけさの雰囲気は「はあ~」だけに託した。力唱だが力みがない仕上がりに、天童の充実ぶりが見えた。
男のひとり言
作詞:さわだすずこ 1コーラス9行、2ハーフの詞を、弦哲也の曲が大ぶりの男心ソングに仕立てた。歌い出し4行分を2行ずつ、情感の階段を上がって、7行目が高っ調子のサビ。じっくりと淀みなく歌い切れなければ、歌のゴールに辿りつけない構成だ。
さわだすずこの詞は、長いけれど展開は少なめ。それをメロディーの手を変えて、山や谷を作ったのは弦の手腕。もともと長めの歌は「入り口」と「出口」の間に「手口」を二つ三つはさまないと姿が崩れる。お陰で山崎ていじの歌が粘着力を増し、歌い納めに達成感まで聞こえた。
凛と咲く
作詞:伊藤美和しあわせ演歌を女性の側から訴える詞。それを小田純平は、タイトルと各コーラス歌い締めの「凛と咲く」に力点を置いた気配。その分だけ曲がポップスに似た展開で大きめになり、さびなどついに、真木ことみが演歌ばなれをした声の張り方で、面白みを作った。
北の絶唱
作詞:いとう彩岡千秋も頑張っている。歌い出しの歌詞2行分を小さめに語らせ、次の2行で一度曲を納める。そこから先がガ然、悲痛な張り歌。岩本公水が元来持っていた力量で、激しい展開を乗り切る。ド演歌から新境地を模索する岡と、歌い甲斐を求める岩本の呼吸が合った。
肱川あらし
作詞:喜多條忠伍代念願の船村徹作品。喜多條忠の詞が、歌い出し2行分は破調で、次の3行が定型の字脚。船村は恐らく〝そう来るか〟のニヤリで、彼独特の曲を書く。伍代の歌は一言ずつ、思いを込めた細やかさ。長くカラオケ族用平易ソングを歌って来た人が、一皮むけた。
月の帯
作詞:松井由利夫松井由利夫の詞は、女心を眉の月に見立てて情緒てんめん。それを山口ひろしの曲が例によって骨太で、松前ひろ子の歌が真正面から彼女流。はじらいさえも脱ぎ捨てて乱れる女のさまが、隠忍の情などどこへやら...の能動的な女に変わる。夫唱婦随の極か。
江ノ島絶唱
作詞:志賀大介イントロから〽ワワワワー...のコーラスが入るムード歌謡仕立て。そんな伴奏の容れ物の中身が、三代沙也可の演歌唱法で、ミスマッチの妙が面白い。湘南シリーズの何作めか。詞が志賀大介、曲が伊藤雪彦とベテランの遊び心が見えるが、伊藤も歳の割によくやるよ!
おまえの涙
作詞:仁井谷俊也しあわせ演歌を男の側から歌うから、鏡五郎は要所々々が巻き舌。それも優しさは声を寝かせて息まじり、決心するあたりは声を立てて男気を聞かせる。歌表現の彫りを深めたい技術、それを技術と思わせないこなれ方に、この人のキャリアと芸がある。
母ちゃんの浜唄
作詞:さわだすずこ夢の中でも今も、主人公は母親の歌を聞く。子どものころ母は魚の行商もどき、成人した主人公は魚河岸の仲卸人。言わば「ヨイトマケの唄」の漁港版で、さわだすずこの詞と弦哲也の曲が、工夫を凝らした。ところが福田こうへいは、ノー天気なくらいに声と節で歌った。