2017年2月のマンスリーニュース

2017年3月31日更新


劇的な奥行きへ、切り替え時だ!

 新聞記者を振り出しに、長いこと活字で表現するなりわいをして来た。歌を聞く軸足がどうしても、歌詞にはじまり歌詞におさまるのは、そのせいか。
 流行歌は昨今、歌謡曲寄りに流れが変わっている。カラオケへの依存や影響から、脱却する意思が見える。自然歌詞は長めになった。しかし、その割に、新しい発想や構成力を示す展開には踏み切れていない。ドラマが見えないのだ。劇的な要素や予感の含蓄を感じたい。作詞家諸兄姉、今が切り替え時ですぞ!

紅ひとり

紅ひとり

作詞:田久保真見
作曲:幸耕平
唄:大月みやこ
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 最近は演歌の本格派ふうにも手を染めるが、作曲家幸耕平が書くものは、やはりこのタイプが本線だろう。リズム感が快く、それに哀感そこそこのメロディーがあって、コーラスでやれば、これはムード歌謡だ。
 大月は軽く、委細承知!の歌に仕立てる。幸とのコンビでは以前『乱れ花』がヒットしていて、あ・うんの呼吸がありそう。
男を待ってひとり紅をひく女の心境のスケッチ。鏡の中の自分に「これでいいの?」と聞く詞は田久保真見。三者とも感情移入さらりと薄めで、安心して聞ける味をよしとするか。

男の流儀

男の流儀

作詞:石原信一
作曲:中村典正
唄:三山ひろし
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 タイトルが決まっている。きりりとした男唄を連想させる。内容は男の日暮れ酒、寡黙に2合...とかっこつけたあと、女には本気で惚れろ!が二番、故郷の駅を思い返すのが三番で、詞は石原信一。
 三山ひろしの歌は、案に相違してソフト。くだけた口調の語り歌にした。快調の波に乗る昨今だが、力まずに行こうと心掛けた結果なのか?
中村典正の曲も、あせらず騒がず...。石原の詞長めに6行ほどなのに合わせたせいか、結局、タイトルほどの緊張感はなかったのが惜しい。

十勝厳冬

十勝厳冬

作詞:幸田りえ
作曲:徳久広司
唄:松原のぶえ
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 歌いはじめ4行分を語らせ、次の2行分で切ながり、おしまいの2行で決める。8行1コーラスの詞を、徳久広司の曲がきっぱりした構成で聞かせる。松原のぶえは、思い詰めて語り、サビで高揚、雪ばかりの十勝厳冬を眼に見せる算段。ベテランなりの歌唱だ。

女の日本海

女の日本海

作詞:たかたかし
作曲:徳久広司
唄:西方裕之
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 徳久広司が、松原のぶえに書いたのは汽車もの。西方裕之用のこちらは船もの。彼の量産ぶりの手の内が垣間見える。西方の歌はサビの高音、歌い放つあたりがハレの気配。一転して、はずみ加減のノリで歌を納めた。よくあるタイプの内容だが、苦心はそれなりに...。

みちのくランプの宿

みちのくランプの宿

作詞:仁井谷俊也
作曲:宮下健治
唄:佐々木新一
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 子育てが終わり、ふたりに戻った熟年夫婦の温泉行。仁井谷俊也の詞、宮下健治の曲、南郷達也の編曲ともにのどかで、ひなびた雰囲気を作る。歌う佐々木新一も、もう十分に熟年歌手。体調崩した噂も聞いたが、高音よりは中、低音で歌って、人肌の味だ。

津軽さくら物語

津軽さくら物語

作詞:齋藤千恵子
作曲:板橋かずゆき
唄:川中美幸
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 先に逝ってしまった人に、降りて来い、もう一度逢いたいと訴える。舞台が弘前あたり、季節は桜の春。おやっ?と思う転身のフォーク調抒情歌で、川中美幸、心機一転が曲調にあらわだ。東北で活躍するシンガーソングライターの作品に、惚れ込んでの仕事らしい。

女の花舞台

女の花舞台

作詞:さくらちさと
作曲:四方章人
唄:石原詢子
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 花舞台はどうやら、女の青春旅立ちの日。四方章人の曲が歌い出しを高音から出て雰囲気を作る。演歌にも挑戦したいさくらちさとの詞は、重ね言葉、掛け言葉で色を出す。松井由利夫以降、あまりやり手のない技術だが、さて奥行きを作れたかどうか。

人生花暦

人生花暦

作詞:原文彦
作曲:叶弦大
唄:鳥羽一郎
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 原文彦の詞が、相当に力んでいる。生きざまソングが狙いのせいだ。一方、曲の叶弦大は聞かせ歌よりは歌わせ歌を狙うタイプ。原の詞をよく使う叶だが、持ち味の硬軟がすれ違った。歌う鳥羽一郎は男唄が身上と来て、この組合わせ、吉と出るのかどうか。

終の恋歌

終の恋歌

作詞:伊藤美和
作曲:桧原さとし
唄:山口ひろみ
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 若い身空でこの縁を〝終の恋〟と思い定めた女唄。伊藤美和の詞1コーラス10行を、桧原さとしがそれなりの曲に乗せた。自然に語りの部分が多めになって、歌う山口ひろみの試練になる。この人らしい味は「乱れ舞う」と「あなた」の高音、悲痛さで生きたが...。

オホーツク海岸

オホーツク海岸

作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:川野夏美
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 冬の旅で、恋を過去のものにしたい女唄。弦哲也の曲はきっと、流氷の海の厳しさを見せ、歌手川野夏美の世界を大きくしたいのだろう。それなりの構成の曲に、川野の歌が寄り添い期待に応えようとする。しかし、仁井谷俊也の詞は劇的要素に乏しく、平板に過ぎたか。

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