こんな時代ゆえの抒情派か?
演歌よりは歌謡曲へ、流行歌の流れが変わって大分たつが、その歌謡曲が抒情歌へ舵を切り始めているようだ。今回、編集部から届いたのが6曲と数が少なめ、それだけで流行歌全体の変化を推し計るのは少々乱暴だろうが、6曲の共通点がなぜか抒情的に甘美で、昭和テイストの匂いも強い。
そうなれば、腕比べになるのはアレンジャーたち。大病から復帰した前田俊明と南郷達也が2曲ずつ、宮崎慎二もそれなりの音作りで参戦している。
2017年8月のマンスリーニュース
2017年9月27日更新こんな時代ゆえの抒情派か?
演歌よりは歌謡曲へ、流行歌の流れが変わって大分たつが、その歌謡曲が抒情歌へ舵を切り始めているようだ。今回、編集部から届いたのが6曲と数が少なめ、それだけで流行歌全体の変化を推し計るのは少々乱暴だろうが、6曲の共通点がなぜか抒情的に甘美で、昭和テイストの匂いも強い。
そうなれば、腕比べになるのはアレンジャーたち。大病から復帰した前田俊明と南郷達也が2曲ずつ、宮崎慎二もそれなりの音作りで参戦している。
新庄恋しや
作詞:麻こよみ 望郷ソングの舞台を、新庄あたりに限定した。麻こよみの詞は最上川や杢蔵山などを小道具に、ご当地ソングの味つけがオマケ。それにゆったりと、民謡調のメロディーをつけたのは水森英夫。歌詞4行分で一段落、ひと呼吸おいて、こちらにも民謡の一節ふうがオマケ。情趣のダメ押しだろう。
昭和30、40年代にかけて、よく歌われたタイプの作品。あのころ一斉に都会に出た若者が、地方との分断の失意を歌ったが、平成ももはや晩年、心は少しは豊かなのか、主人公の感慨には、さほどの切実感はない。
だから、水田竜子の声味が生きた。芯が明るめの声に哀愁少々、のびのびと素直な歌唱で、抒情性を加えている。
望郷縁歌
作詞:星つかさ こな雪冷たい 別れの駅で...の、歌い出し歌詞1行分で「ぬ!」と、心ひかれた。中音から出る歌唱が、息まじりの声で真っすぐに切迫感を持つ。伝えたい思いのほどが、しっかりと歌の芯にあるのだ。
和田青児の歌唱はその先4行分、語り口を維持して昂り揺れて、破綻がない。泣く訳でもなく恨む訳でもなく、適度の男の悔恨が、応分の説得力を持った。
星つかさ名の作詞、作曲は本人とか。よく出来た、昭和テイストの望郷歌。彼はこの路線を歌いたかったのだなと、合点がいく。生まれも育ちも、そんな演歌の中の人。器用だから、いろんなタイプの作品を歌って来たが、ここで1曲己れの集大成が出来たか!とご同慶のほめ言葉を一言―。
人生夢将棋
作詞:仁井谷俊也もともと大音声で、声の力を誇り、節の巧みさを身上とする人。それが今回は仁井谷俊也の詞、岡千秋の曲に身をゆだねた。将棋が題材の男の生きざまソング。勇ましい文言の詞をすっきり歌って、声を張り気味なのはサビの1行分くらい。そのせいか作品の言い分!?が前面に出て、美声もちゃんと生きているから面白い。
赤い涙
作詞:門谷憲二死にたくて 死ねなくて 血のような涙を流す...という女性の、こがれ愛の歌。門谷憲二の詞のかなり刺激的な表現を、杉本眞人が快いノリの曲にした。キム・ヨンジャの歌唱はひたひたと、一途に情感中心。日本へ来た当初、演歌を"わさび味"に仕立てるために大いに苦労したが、それと彼女本来の"キムチ味"が、いい案配に混然一体になった。
ホタルの恋
作詞:田久保真見近ごろ真木柚布子は、歌とセリフの一人芝居に熱中していると聞く。もともと演劇畑から歌に入った人だから、そんな地力を生かしたいのだろう。今作は田久保真見のやや醒め加減の詞に、弦哲也の情の細やかめの曲だからここでも"その気"になった気配。あたたかい声と息づかいを中、低音で生かす言葉のさわり方が、この人流で独特だ。