2018年2月のマンスリーニュース

2018年3月31日更新


いい歌とローテーションについて

 歌を大化けのヒットに育てるには、ある程度長めの時間が要る。メーカーはそれを睨みながら、見切って次の作品を出す。人気歌手それぞれには、年間相応の売上高を見込んでのビジネスだ。
 シングルの発売といい歌との切り替えは、有無、双方の胸中にズレも生じる。かと言って新曲が出たのに前作を歌い続けるのもむずかしい。伍代夏子の『肱川あらし』には、聞く側の僕に未練が残った。香西かおりの『酒暦』は、長く歌い続けて欲しい欲がつのっている。

宵待ち灯り

宵待ち灯り

作詞:麻こよみ
作曲:四方章人
唄:伍代夏子
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 四方章人の曲がW型だが、彼のものらしく穏やかめだ。W型というのは歌い出しを高音で出て、サビと歌い収めで高音を三度使うタイプ。もう一つはM型で、静かめの歌い出しから、中盤で高音は2度。W型の方が作品のインパクトが強くなる利点がある。
 伍代はそんな四方メロディーを、息づかい細やかに語る。麻こよみの歌詞の言葉ひとつずつに、表情をつけ、女の健気さと優しさをうまく表現した。『肱川あらし』がヒット、作詩大賞もゲットした自信か、歌唱も彼女流に女ざかりの境に達したということか。

はなびらの雪

はなびらの雪

作詞:久仁京介
作曲:山崎剛昭
唄:鏡五郎
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 こちらも山崎剛昭の曲がW型。このタイプは高音の3個所をつなぐために、無理が出る可能性がある。メロディーがただ単につなぎ役だったり、高音へ移行するために力みが加わって奇をてらうに止まったり。
 久仁京介の5行詞を、山崎はうまい起伏のW型に仕立てた。起承転結、特段の新味はないが、これはこれで5行詞ものの定石か。
 歌の主人公は駒子で『雪国』のヒロインと同じ名前。それがいいねと男は愛したらしい。北国の風情にじませて、鏡五郎の歌表現は実に彼らしい女心もの。手慣れた役の演じ方だ。

勝負の花道

勝負の花道

作詞:朝倉翔
作曲:四方章人
唄:氷川きよし
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 人生一筋、氷川の花道は、人生訓混じりにどこまで続くか? 何と三番で亜細亜から世界までと、大きく出た。朝倉翔の気張った詞に、四方章人の曲と石倉重信の編曲が軽快。「ア、ヨイショ」「ハッ」と来て、四方の出世曲『浪花節だよ人生は』を思い出した。
(画像はAタイプのジャケットです。)

酒暦(さけごよみ)

酒暦(さけごよみ)

作詞:池田充男
作曲:森山慎也
唄:香西かおり
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 「寂しがりやに囲まれながら、わたし揺れてる、いまが好き」という三番の詞が、池田充男と香西かおりを〝共感〟でつないだろうか。ヒット曲『酒のやど』の曲も書いた森山慎也との相性も良さそう。80代もなかばの池田が、酒に託して人生を総括している気配がある。

くちなし雨情

くちなし雨情

作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:杜このみ
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 民謡で鍛えたノドの持ち主のはず。それがそのまま演歌に出ては、歌の情がいまひとつになる。だから杜は能ある民謡の爪を歌の芯に隠す。弦哲也の曲の細やかさが、そう誘導していそうだが、歌は柔らかく優しく。サビと歌い収めの高音部に爪がチラリとした。

きずな橋

きずな橋

作詞:水木れいじ
作曲:水森英夫
唄:天童よしみ
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 天童よしみの歌と水森英夫の曲には、昔から縁ときずながありそう。水森は天童の声と節にメロディーを託して、天童はそれを大づかみにのびのびと歌う。女心ソングのしみじみ感は、息づかいで色をつけて、感情移入もゆったりめ。二人の得手は気合いと情らしい。

孔雀の純情

孔雀の純情

作詞:喜多條忠
作曲:弦哲也
唄:川野夏美
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 女心ソングの主人公を、喜多條忠は〝孔雀〟に見立てた。自然、女の切なさ辛さと意地っぱりは、羽とその扱い方で語られることになる。作曲の弦哲也が川野夏美で目指すのは、ドラマチックな歌世界。風変わりな詞を手がかりに、川野は抑えめの歌唱で歌を大きくした。

無情の波止場

無情の波止場

作詞:石原信一
作曲:岡千秋
唄:原田悠里
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 原田悠里もまた、このところずっと能ある爪を隠している。クラシック育ちの美声を捨て、吐息で歌を聞かせる抑制ぶり。連絡船ものか?の予感を覆して、シャンソンふうに立ち上がった岡千秋の曲が、そんな彼女を生かした。原田の年期の芸、うまいものだ。

鳰の湖

鳰の湖

作詞:たかたかし
作曲:弦哲也
唄:丘みどり
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 たかたかしの詞の歌い出し2行分を、丘はもの静かにスタートする。3行めには後半2行分、高音でせり上がりっぱなしの〝動〟へ、ちゃんと仕掛けがしてあった。ラストのめいっぱい切実感が、この歌い手の力量とキャラに似合うのが、弦哲也の見立てと算段と判った。
(『伊那のふる里』との両A面です)

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