女流二人をヨイショする
仕事柄が気になるから、ずっと追跡している作詞家が田久保真見。すっかり売れっ子で、実に幅広い歌世界を構築しているが、詞の〝醒めた視線〟は独自でしぶとい。その醒め加減が、歌の酔い心地とどうバランスを取って行くのかをあやぶんだのだが、こう多作になっているのは、制作者たちが認めているということか。最近気になるもう一人は朝比奈京仔という人。こちらは流行歌らしい酔い心地の程の良さで、独自のフレーズを捜している気配があってが楽しみだ。
2018年9月のマンスリーニュース
2018年11月2日更新女流二人をヨイショする
仕事柄が気になるから、ずっと追跡している作詞家が田久保真見。すっかり売れっ子で、実に幅広い歌世界を構築しているが、詞の〝醒めた視線〟は独自でしぶとい。その醒め加減が、歌の酔い心地とどうバランスを取って行くのかをあやぶんだのだが、こう多作になっているのは、制作者たちが認めているということか。最近気になるもう一人は朝比奈京仔という人。こちらは流行歌らしい酔い心地の程の良さで、独自のフレーズを捜している気配があってが楽しみだ。
海鳴りの駅
作詞:田久保真見 ああ海鳴りよ、波の慟哭よ...と来た。慟哭なぁ、歌言葉としてなじむかどうか? 字で見れば判るが、耳で聞いてそれと伝わるか?と、余分なことを一瞬考えた。その後で昔、「あなたの過去など...」の「過去」に菅原洋一が疑義を訴え、なかにし礼が突っぱねたケースを思い出す。結果あれは、あの歌のヘソになった。
作詞家田久保真見の冒険である。女性の離別を相変わらず醒めた表現で描いて、2番にそれも出てくる。さて、どう歌いこなすか...と、大月みやこはひと思案したことだろう。
残花(ざんか)
作詞:朝比奈京仔 こちらはタイトルからして「残花」である。許されぬ恋だが、どうしても散れない思いをはかなく白い残花に託した。残花は一体何の花かは触れない。
鳥羽一郎の『儚な宿』を聞いて、悪乗りヨイショをした朝比奈京仔の詞。泣いて泣いて涙に溺れる女心ソングだが、相手や境遇を恨んだりしないところが、ほどの良いこの人流。男にひかれて、底なしの沼にはまっている女に聞こえる。それを委細かまわぬ曲に乗せたのが小田純平。ひと思案したろう山本譲二は歌い収めの「残花」の部分でドスを利かせた。
男の火花
作詞:秋浩二 タイトルも中身も、勇ましげな大相撲ものの詞は秋浩二。3番など「天下無敵の押し相撲、大和魂のど根性」と来る。それを筑紫竜平のペンネームで、大川栄策が作曲して歌う。
面白い対比だと思う。曲も歌も、勇ましくも男っぽくもないのだ。大川は自分の声味と節回しを優先して、のうのうと、いかにも彼らしい世界に仕上げてしまった。
京都 ふたたび
作詞:麻こよみそうか、多岐川舞子の歌手歴も30周年になるのか。そこで出身地の京都を舞台に、もうひと花咲かせようということになったのか。麻こよみの詞がソツなく、愛した男との再会を喜ぶ。「つなぐ手と手の二寧坂」に収まるハッピーエンドだ。作曲は徳久広司。歌手に余分な思い入れや技を持ち込ませぬ徳久流が舞子の歌を率直に素直にしている。
恋女房
作詞:木下龍太郎ここのところ2作ほど、岡千秋作品で新味のある彼女ふうを歌って来た。それが一転、師匠北島三郎の曲に、木下龍太郎の詞の夫婦ものである。ゆったりめ、温かめの歌処理だが、メロディーは北島節の典型的な男唄。語り口に垣間見えるのは、師匠譲りか浪曲修業の成果か。張り歌の曲を語り歌に仕立てて、この人の芸は幅が広くなった。
雪の花哀歌
作詞:仁井谷俊也歌い出しを高音で出て、中盤と歌い収めにまた高音を使う。僕流に言えばW型のメロディーで、訴求力が強い。それをゆったりめにやったのが岡千秋。その起承転結の哀調に、岡ゆう子の歌表現が添った。その気にさせたくせに去った男への未練。仁井谷俊也の遺作の言葉一つ一つをていねいに歌う年季の芸で、この人らしい一途さと声味が生きた。