たまには手放しで褒めちゃうヨ!

2011年6月30日更新


殻を打ち破れ114回

「ほっほっほっほ…」
 と、一人で笑ってしまった。坂本冬美の『桜の如く』を聞いてのこと。自宅の居間、家人の留守、いい年のおっさん!?がプレーヤーの前でニヤニヤする。不審げに見上げるのは猫のふうちゃん…と、他人が見たら気味悪がりそうな光景だが、当の本人の僕は上機嫌だ。何しろこの「ほっほっほ…」は「へえ!」とか「ほほう!」とかを通り越した感想のあらわれ。共鳴とか共感とかの親しみがこめられている。
 ♪どんな試練が待ちうけようと 夢はつらぬく最後まで…
 と、たかたかしの詞はあくまで重厚である。
 ♪不惜身命ひとすじに 行くが人生人の道…
 なんてフレーズまで出て来て、これはもう村田英雄にぴったり…という世界。ところがテスト盤から流れ出した冬美の歌声は、明るく軽やかに弾んで、やたらに快活なのだ。
 「やるなぁ、諸君!」
 歌詞カードのクレジットを見れば、作曲が徳久広司、編曲が馬飼野俊一とある。この歌詞にこのメロディー!のミスマッチは、相当にすっ飛んだ発想、調べてみたら徳久がAタイプ、Bタイプの2曲を書いて「いいね、いいね」になったのがBだったそうな。ポップス寄りのこっちの方が、歌詞からの飛び幅が大きかったと言うことか。リズムを細かく刻んで、スカパラホーンズ参加のアレンジをした馬飼野の仕事ぶりは、もろポップス。2人が冬美をすっかり“その気”にさせたものと、合点が行った。
 「その手で来たか、ヤマグチ!」
 僕はこれを作った山口栄光ディレクターの顔を思い浮かべて、この年下の友人に拍手を送った。冬美の25周年作品の1発め、3年ぶりの演歌となると、気合いが入ったろうし、知恵も絞ったことだろう。何しろあの『また君に恋してる』大ブレークの後の作品である。冬美本来の演歌路線へ戻す時期ではあろうが、かと言って昔ながらの演歌では、せっかく集めた若者ファンの支持を失いかねない。企画の着地点探しは、かなりむずかしい作業なのだ。
 昔、意表を衝いた大ヒット『夜桜お七』の後を思い出す。セリフ入りの『蛍の堤灯』をはさんで、演歌の『大志』で着地した。その前例も考え合わせて、もっと若者寄り、近ごろふうを狙ったのが、今回のトライではなかったろうか?
 ケイタイで、つかまえた山口ディレクターは成田空港に居た。由紀さおりのアルバムづくりのアメリカから帰国、バスを待っていたところだと言う。
 「ひばりさんの『人生一路』の線を狙ったんです。若いファンにも、エンカってかっこいいじゃん!って思って貰いたくて…」
 明快な返事の声が元気だった。僕はここでもう一度「ほっほっほ…」になった。美空ひばりがあの歌を出したのは1970年だから41年前のこと。今年はひばりが23回忌、冬美が25周年である。「温故知新」を絵にかいたみたいな話ではなかろうか!

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