≪『蒼空の神話』ねぇ。タイトルとしちゃ頑張り過ぎの気もするが...≫
ニヤリとしながら、チェウニの新曲を聞く。荒木とよひさの詞、三木たかしの曲...。
聴きおえて、なかなかのものと合点した。8行詞の前半4行分、かわいい女になりたいと訴える序章で、チェウニが地力の強さを示す。三木らしいメロディーに乗って、ひたひたと迫って来る歌いぶりがそのポイント。一転、サビの高音部が、この人らしい健気さやいじらしさを色濃くする。これは、カラオケファン用"歌わせ歌"を超えて"聴かせ歌"の大きさを持つではないか!
例によって少々長めの曲だが、三木ならではの遺作。テレサ・テンに似合いの曲想だが、チェウニはしっかりと自分の歌にした。テレサが歌うと、やわらかに甘美になるところを、チェウニは芯の強い芸風でしのいでいる。歌い手によって、仕上がりの色が全く違う歌になる一例だろう。
ある日、キャスターの宮本隆治から電話があった。三木の曲を歌わせて貰うと、声が弾んでいる。門倉有希とのデュエットで『恋猫』と『東京ムーンライト』の2曲。こちらは、いかにもNHK育ちらしい折目正しい発声、滑舌と歌唱に、≪生まれは隠せない...≫と、僕はまたニヤリとした。
三木はこの五月十一日が七回めの命日。いい作品が埋れたままなのを、昨年の七回忌偲ぶ会で、是非世に出して!とアピールした。会費を貰い、献花して貰ったうえでのプロモーションは、いわば作品の"押し売り"。その会の司会をやったのが宮本だから、趣旨も飲み込んだうえで歌手に起用されたのだから"その気"になるのもよく判る。
僕も一枚噛んだそんな珍しい企てに、歌社会はおおむね寛大で、各社がCD化に参加してくれた。チェウニの他に因幡晃の『今度生まれたら』、クミコの『純情』、伊藤咲子の『プルメリアの涙』、星星の『一番きれいな花』、レコーディングは済んだが本人の懐妊で出番待ちになっている元宝塚春野寿美礼の『黄昏は傷ついて』と『愛に守られて』等々。香西かおりや美川憲一も手を挙げて、作品を検討中と聞く。
作家諸氏の新作が、力不足という訳では決してない。CDの売上げが低迷、シングルのリリース数が減っている中で、危機感を持つ作家たちが創意工夫に腐心している実情はよく判っている。その成果が表われる作品も、あれこれ耳にする。しかし、個性的なメロディーメーカーだった三木の遺作も、何とか陽の目を見せたい。彼の作品が世に出る隙間はあるはずだ!というのが、僕らの願いだった。
石本美由起や市川昭介の遺作が、見直される流れもある。手練者の彼ららしい作品が流行歌に彩りを添えている。その傍らで静かに動き始めた三木たかしムーブメント。クミコはいち早く三木作品にトライしているし、伊藤咲子はもともと阿久悠・三木たかしの作品でデビューした人。『恋猫』の詞を書いた友利歩未はJCMで七回忌の打ち合わせをした僕らに、お茶を入れてくれたりした。流行歌ひとつの陰にも、生きているのは縁、制作者と三木の親交も甦る。
深夜、それやこれやの作品を聴きながら、三木の友人であり彼の結婚の媒酌も務めた僕は、早く逝っちまったあいつの歌たちに、ひとり杯を挙げる気分でいる。