友あり!55周年記念曲が届く

2016年12月23日更新


殻を打ち破れ175回

 新作のCDは、歌い手本人から届いた。差し出し人欄に、あの懐かしいサイン書体で「新川二朗」とある。今年がデビュー55周年の節目。記念曲が『泣かせ酒』(仁井谷俊也作詞・水森英夫作曲・伊戸のりお編曲)でパーティーもやると言う。

 便箋の走り書きは「御無沙汰致しております」に始まり、記念曲が「会社では大評判です」と、サインペンの字が躍る。応分の自信作なのだろう...と、ジャケット写真を眺める。かっちりしたスーツに蝶ネクタイ。目線やや遠めの笑顔の新川が、茶トラの猫を抱いている。

 ≪へえ、彼も猫好きだったのか。知らなかったなぁ...≫

 昨今、時ならぬ猫ブームだが、愛猫2匹と暮らす僕は、ここでもニヤリとする――。

 ♪いのち一途に 尽くしてみても 別れりゃ他人の 顔になる...

 新川の歌声が、ズサリと始まる。そんなふうに別れていった男への、未練を歌う女唄。しかし彼の歌唱は、委細かまわずスタスタと行く新川節。余分な感情移入で、シナを作ったりなどしない。声と節で聴かせる昔気質、鼻の奥、額のあたりで響かせる独特の高音が、聴く僕にまっすぐに届く。

 ≪たいしたもんだ!≫

 感じ入るのは、歌声に衰えを見せぬ「覇気」についてだ。芸歴55周年、もう大ベテランで、ふつうこのキャリアの歌手は、声をいなし、息づかいを工夫して、その年齢なりの唱法を見出す。ところが新川の歌には、そんな気配はまるでない。

 作曲の水森英夫も、そこは計算したのだろう。1コーラス7行の歌詞に、ざっと数えて8小節分も、高音を使っている。今ふうの新川を模索するのではなく、それが身上の高音の張りを、徹底して前面に出した、半端な新しさよりも、古風にしろ良いものは良いはず...と肚を据えた結果か。

 新川は昭和37年『君を慕いて』でデビューした。金沢のヘルスセンターで歌っているのを、地方の興行師に認められてのこと。村田英雄に見出されて...は伝説で、その縁から新栄プロに入り、キングレコードに所属、今日も変わらない。当時から新栄プロ社長西川幸男氏の薫陶に恩義を感じ、氏の晩年はしばしば料理番も務めた。僕もこの世界のいろはを西川氏に教わった新栄育ち。スポニチの取材部門に異動したのが38年だから、新川とはほぼ同じキャリアの同志だ。

 やはり金沢のヘルスセンターが振り出しの男に、作曲家の聖川湧が居る。新川とアパートが同室、同じ釜のめしの仲が、新川に刺激されて発奮、香西かおりを育て、成世昌平の『はぐれコキリコ』の大ヒットで、出身地富山・新湊の名士から富山の名士になった。

 それも縁なのだろう。新川の記念曲のカップリングには、聖川が作詞・作曲した『風だより』が収められている。新川とデュエットしている歌手名が前田俊明。僕は一瞬「ン?」となったが、あの売れっ子アレンジャーとは同姓同名の歌好き。「共栄建材工業」とクレジットされているが、どうやら社長。新川の後援者で同志だろうが、歌唱も大したものである。