新歩道橋926回

2015年10月17日更新


 誇示したいのはやっぱり「パワー」なのだろう。デビュー15周年記念リサイタルを5都市でやった山内惠介の場合だが、選曲にそれがありありだった。一部の幕切れが美輪明宏の「ヨイトマケの唄」で、二部のあたまが三波春夫の歌謡浪曲「豪商一代紀伊国屋文左衛門」。歌うには相当な力仕事になるものを惠介流に朗々と仕立てて、なかなかなものである。
 ほかにチューリップの「心の旅」マイ・ペースの「東京」クールファイブの「東京砂漠」沢田研二の「TOKIO」谷村新司の「昴」なども歌う。演歌歌手に止まらない魅力の側面を見せる、今どきの若者らしさ。僕は9月25日、NHKホールの分を見たが、よくしたもので客席いっぱいのペンライトも、そこそこの乗りでリズミカルだ。後援会名簿が7000人を越えたと三井エージェンシー三井健生社長が豪語する熟女たちも、結構今どきの若さを保っているみたいだ。
 それにしてもあの、ひょろ長、やせぎすの体格の惠介の、どこにそんな活力が秘められているのか。オリジナルを中心にアンコールまで全29曲。中に水谷千重子とデュエットする「恋のハナシをしましょうね」のサービスもあるが、一曲ずつを全力投球、声や動きがいささかも衰えない。イケメン系のスターらしさで、着替える衣装も花やかで次々...。「正」の字印で僕は記録しはじめたが、途中で数えきれなくなってやめた。
 15周年のキャリアは、決して順風満帆という訳ではなかった。作曲家水森英夫門下生としては、先輩の氷川きよしが脚光を浴び、内心には焦りもあったろう。「エンカな高校生」のキャッチフレーズでデビューした当初は「霧情」など星野哲郎作品。思うにまかせない日々で空を仰いだのが「あの頃、月が僕のスポットライトだった」と、今回のリサイタルのタイトルになっている。転機になるのは6年後の「つばめ返し」で、佐々木小次郎の扮装で歌った。
 内容はラブソングなのに、時代劇の〝見せ方〟は、一見弱々しそうなルックスを脱出する思い切った作戦。
 「京都あたりの、呉服屋の息子? なんて聞かれていた」
 と、本人が苦笑いするイメージを、凛々しく変えようと三井社長や水森が踏ん張った。優し気な雰囲気は、隠し味なら生きるが、表面にモロ出しではファンの反応を限定してしまう。三井健生は、僕らの遊び仲間「仲町会」発足以来のメンバー。呼び捨ての長いつき合いで、彼の人柄も仕事ぶりも熟知しているから、多少の助言もした。
 以降は青春歌謡ふう路線でアイドル化、ころあいを見て映画主題歌ふう骨太な作品に幅を広げる。「外柔内剛」の九州男子ぶりが、言動に色濃くなって、今日のキャラクターが出来上がる。一昨年と昨年にやった初主演の舞台「曽根崎心中」の主人公は、優柔不断を絵にかいたようなやさ男。
 「イメージが逆戻りしないか?」
 という心配が僕らにあったが、
 「揺り戻しをバネにする!」
 と、三井は動じなかった。
 芝居の体験は、リサイタルのトーク部分に生きた気がする。曲の合い間に、デビュー当時の思い出や、人間関係の大切さ、果ては地球が生まれてからの年数から、人生は束の間の奇跡...なんてネタをはさむ。これが短めに簡潔で、よく整理されているうえ口調がユーモラス。めいっぱいの歌唱と好対照で、ショーに緩急の妙と、いいテンポを作っていた。
 最新作の「スポットライト」は作詞が喜多條忠。水森夫妻と並ぶ客席にいたが
 「今日はありがとうございます」
 と笑顔であいさつされた。この人も長いつき合いだが、惠介作品は初めてのはず。こちらはデビュー以来ずっと惠介を見守り芝居も共演しているから、
 「お前にそう言われる間柄じゃないぞ俺たちは!」
 と、乱暴な冗談を返した。
 驚いたのは休憩時間に出来たCD即売への列。ざっと数えると100人はゆうに越していた。山内惠介を支える側の、パワーの一端。一緒に年末の紅白歌合戦を狙っているのだ。
週刊ミュージック・リポート