新歩道橋941回

2016年4月9日更新


 6月に東武鉄道を「ひばりトレイン」が走るそうな。美空ひばりのあで姿をラッピングした車輌が、関東平野をひた走りなのかな...と、ぜひ乗りたい気分になる。行く先は日光、近ごろ激増している外国人観光客も視野に入れて...と、ひばりプロ加藤和也社長と有香夫人が、こまごました打ち合わせを詰めているころか。
 日光と言えば船村徹記念館である。昨年5月のオープンまで長い間あれこれ手伝ったが、客足は順調、1周年を迎える前に目標の10万人は超える見通しだ。ひばりと船村―これはまた切っても切れない縁の二人である。歌手と作曲家としての戦いで、二人ともこのコンビならではの境地を開拓し続けた。船村あってこそのひばり、ひばりあってこその船村だったから、記念館のメイン・キャラは当然ひばり...と、企画段階から僕らはワイワイ言い続け、日光市の役人さんの目を白黒させたものだ。
 「ひばりトレイン」が日光へ走るとなれば、当然、記念館で「ひばり展」という話になる。行政が作る記念館というのは、あとあとまで予算の話がついて回って厄介、山口の周防大島に星野哲郎記念館を作った時に、その辺は十分に体験した。しかし、あちらは「町」こちらは「市」だから、建て物も諸かかりも大分規模が違う。集客イベントだってそれなりに...と、昨年にきつい出費註文を連発したがうまく話が進んでいるかどうか?
 「ねえ、ここまで来て俺たちと飲みながら、まだそんなことを言ってるの」
 と、車座の仲間に冷やかされる。日光から話がいきなり飛んで恐縮だが、3月5日に成田を発って、僕らは今、ベトナムのダナンにいる。年に一度の小西会の海外ゴルフツアー。寒いうちに暑いところへ、近くて安めに...という催しが、今年は3月に延びた。1月が川中美幸公演で大阪・新歌舞伎座、2月が大衆演劇の門戸竜二一座に加わって地方巡演という僕のスケジュールのせい。
 まごまごしているうちに、東京も春めいちまったと、不満顔だったメンバーも、ダナンに着けばきっちりと夏で快晴、気温は28度。短パン半袖で浮き浮きとプレーして、夕刻からはお定まりの酒である。気のいい面々の旅は、国内外を問わずにゴルフと酒。変化するのは気候と景観と気分だけだ。
 「それにしても頭領、あちこちのカラオケ雑誌に出てたけど、あれは何なのよ」
 雑文屋と役者の二足のわらじだから、芝居の話で載るのはいいとしても、「夜霧のブルース」を歌ってるなんて、ケタのはずれ過ぎでしょうという顔つきが並ぶ。1月にザ・プリンスパークタワー東京で開かれた横浜カラオケ研修会の60回記念大会というのに呼ばれてのことを指す。
 主宰する福田伴男医学博士と真子夫人とは、40年余のつきあい。もともと福田氏がスポニチの釣り欄の常連執筆者のころに知り合った。旭区に医院を開業して長い人だが、これが相当な粋人で、ディック・ミネと親交があったから、直伝の「夜霧のブルース」を十八番とする。そのうちカラオケ健康法に着目。その理論と実践のために研修会を持って各地から大勢の紳士熟女を集めている。
 「記念大会だからさ、トリで一緒に歌ってよ」
 と言われれば、こちらもこの曲は長く歌いづめだし、役者稼業で発声には自信を増しているし...の顛末が写真つきで雑誌に載ってしまったのだ。
 ゴルフはダナンGCとザ・モンゴメリーリンクスで3連チャン。朝早くホテルのロビーに集合、僕はスコア度外視のお遊びのプレーをしてホテルへ帰還。シャワーを浴び、ビールでノドを潤して晩めしからズルズルと酒宴...。僕らのツアーはどこへ出かけても同じスケジュールの繰り返しである。今回はベトナム料理に変わって、例の生春巻きふうを中心に、クエの鍋がすこぶる美味。おなじみのメンバーはどこかが似た者同志で、だんだん性分から食の趣味まで似て来ている。
 「そう言えば和也社長が不参加。その口惜しさか、あの夜は大分飲んでいたね」
 2月27日、中目黒キンケロシアターで、僕らの門戸一座公演を見たあとの大酒盛りに話が戻る。確かに和也社長は珍しく酔ってはしゃぎ気味だった...と、ベトナムまで来ていながら、そんなあたりで雑談の幕が降りる4泊5日になった。
週刊ミュージック・リポート