新歩道橋951回

2016年6月25日更新


 7月下旬、路地裏ナキムシ楽団の公演に参加する。といっても別に、歌を歌ったりする訳ではない。バンドと役者が共演する新機軸パフォーマンスだが、今回は「オンボロ観覧車」が外題だ。この楽団の7回目の公演で、下町の遊園地が舞台。しかも閉園当日という設定で、そこに集まる人々の悲喜劇が展開する。
 触れ込みは「青春ドラマチックフォーク」で、その辺にこの集団が「劇団」ではなく「楽団」である意味あいが託されていそう。7回めの公演についても「第七泣き」と表現される。若い感覚の人情話シリーズで、
 「大いに楽しみ、しんみり泣いて貰おう」
というのが、ドラマづくりのコンセプトなのだ。
 「作・演出」にも楽団名がクレジットされているが、ボス格の田村武也が一手引き受け。それだけに止まらず、舞台装置から音楽、音響、照明、大道具、小道具、衣装にいたるまで、彼のアイデアが具体化されていく。この人、ほとんど自分から名乗ることはないが、実はヒットメーカーの作曲家弦哲也の一人息子。僕はその縁で前回から出演、今回また声がかかった。
 芝居の方から先に書く。登場するのは、交通事故で死んだ青年の幽霊と生き残った恋人、遊園地の広報担当と掃除員、スリの親娘にそれを追う刑事、遊園地のメンテナンス担当の職人とその弟子と恋人、それにそこのアイドル歌手が出て来たりして、僕の役は何だかいわくありげなお掃除おじさんだ。そんなキャラクターたちが、泣き笑いのエピソードを積み上げていく趣向。それぞれの場面にバンドのオリジナル曲がナマでからみ、中盤は遊園地のアトラクション仕立てで、バンドがライブをやるのが人気のポイント...。
 バンドのメンバーは6人。ボスの田村が「たむらかかし」を名乗ってボーカルとギター「ハマモトええじゃろ」がボーカルとピアノ「暮らしべ四畳半」がボーカルとギター「カト・ベック」がエレキギター「アンドレ・マサシ」がベース「遠藤若大将」がドラムスという内訳。全員妙なステージネームを名乗るあたりが、今様のシャレッ気らしい。役者の方は藍沢彩羽、天野耶依、原田里佳子、井口千穂の女優陣に橋本幸坪、千年弘高、押田健史、田村慎吾、上村剛史、小島督弘、小森薫に僕が男優陣で、一人で平均年齢を上げている僕からすれば、娘や息子みたいな若者揃いの合計12人だ。
 断続的に進むけいこは、どういう訳かいつも夜。どうやらそれぞれ別に参加する小劇団のけいこや本番、仕事やアルバイトもありそうだが、僕はいちいち詮索はしない。いずれにしろ皆、とても一生懸命で、ジョークを飛ばしながらのけいこは、なかなかの熱気。田村を囲んで、ああしようか、こうもしたい...などの会話もにぎやかだ。
 バンドの面々は、あまり顔を出さない。芝居組とは別行動で、オリジナルの楽曲づくりやリハーサル、録音などに集中しているのだ。田村はこちらもその中心だから大忙し。ニヤニヤしながら神出鬼没ふうだが、芝居組への注文、ダメ出しは相当にこまやかだ。脚本づくり段階から、各場面、各人物について、相当はっきりしたイメージが出来ているらしく、指摘も的確、多彩な才能と統率力をユーモアで包んだ言動が好もしい。
 そう言う僕は、7月6日から5日間の東宝現代劇75人の会公演「坂のない町~深川釣船橋スケッチ」(深川江戸資料館小劇場)のけいこ中で、こちらがまたかなりの出番とセリフだから、覚えるのに必死だ。折角もらったチャンスだもの...と、両公演とも踏ん張り抜く覚悟。
 「ご免ね、あっちが10日に終わるから、11日からはがっちり参加するよ」
 若者たちに言い訳をしながら「楽団」のけいこを後回しにする。こちらの公演は7月22日から3日間、場所が下落合TACCS1179という小劇場で、その間10日あるから何とかこぎつけられそう。
 「ひと公演、千秋楽と打ち上げをやって、その翌日から次のけいことは、乙なもんだろ」
 と、年甲斐もなく嬉しがってみせる。梅雨のじとじとや合い間の酷暑も、一途集中! としのいでいける元気だけは、これまた年甲斐もない―。
週刊ミュージック・リポート