新歩道橋955回

2016年8月7日更新


 美空ひばり家の嫁加藤有香によれば、
 「白い猫に出会うと、その日一日、必ずいい事がある」
 という。それじゃ僕は文字通り〝日々是好日〟だ。わが家の「パフ」は、化粧用品のそれが名前の由来で、純白の美猫。7月に芝居を2本もやれたのは、そのご利益かも知れぬ。
 有香のダンナ、つまりひばりの息子・加藤和也は小西会の有力メンバーの一人。僕の芝居を必ず観に来てくれて、24日、路地裏ナキムシ楽団の「オンボロ観覧車」(下落合・TACCS1179)の追加公演では、眼を赤くして帰った。作、演出ほか一切合切を仕切る主宰者田村武也は、昭和テイストの人情劇で、客を泣かせることに熱中する。和也はそのトリコになった訳だが、作曲家弦哲也の息子の田村とはジュニア同士の顔なじみ。「やあやあ」「どうもどうも...」と双方如才がない。
 「都はるみ女史が来てさ、すっかり演技派ですねなんて、お世辞を言われた」
 と、内心満更でもない報告をしたら、
 「そりゃそうでしょ。いい役で長ゼリフ、なかなかの味ですもん」
 と、和也は僕にも如才がない。そう言えばレギュラーで書いているひばり後援会誌の原稿が締め切りを過ぎている。有香に謝っといて! と頼んだら、
 「OKです。何しろ小西さん忙しいんですから。でも、締切りは締切りです」
 と、きちんと釘を差された。
 ナキムシ楽団は若者の音楽・演劇集団。公演打ち上げの飲み会もハンパじゃない盛り上がり方で、ヘロヘロの僕は24日、またまた横須賀線の最終で葉山へ帰る。公演中は高田馬場のホテルにいたから、机にはFAXや郵便物の山。25日昼すぎ、やっとそれを整理にかかったら「UNIONE、7月27日、SMEよりメジャーデビュー!」のカラーはがきが、まっ先に眼につく。和也・有香夫妻が手塩にかけた5人組ボーカルユニットで、グループ名は「ユニオネ」と読む。
 ひばり没後、残された業績の継承からひばりムーブメント開発までに没頭して来た二人の、新しい仕事だ。UNIONEのイケメン揃いや、全員がメインボーカルになれる歌唱力は、去年からよく聞かされて来た。ストリートやライブハウスでやった武者修行の現場は、有香の取り仕切り。「メーカーのVIPが急に来ることになったので...」と、食事の約束が延期になったこともある。
 ひばり家とは、母親喜美枝さん、ひばり本人、和也夫妻...と、三代にまたがる親交がある。ひばりの「ひとと仕事」の大きさは、身に沁みて判っているから、その文化の継承の大切さ、重さも痛感して来た。
 「でもさ、生涯、墓守りってことでもないだろ。いずれ二人の、若い世代らしい仕事にも手をつけなきゃな!」
 親しい分だけ乱暴ないい方で、折りに触れ、僕は二人を激励した。UNIONEは、その第一弾。新たにプロダクション「BiKuu Project」を興して、有香がその代表取締役。「Bikuu」は「美空」を指すのだろうが、その気合いの入り方ただごとならず...と、僕は感じ入る。頼もしい限りではないか!
 翌日の26日には沢竜二事務所から台本とチラシが届く。8月8日の昼夜、新宿紀伊国屋ホールでやる「ある旅役者の記録」で、橘進之助・裕太郎、神山大和ら若手座長、副座長など花形が揃うが、僕もゲストで出て、始まっているけいこに途中から参加する。チョイ役でセリフも少なめだから「何とかなるさ!」と例によって楽観的。8月もまた芝居でスタートになる。
 「よくやるわね、あんた、もう立派に病気だね」
 と、どこからか美空ひばりの声が聞こえそうな今日このごろだ。
 僕が一足お先で、この10月にそうなるが、ひばりは来年が生誕80年。和也・有香夫妻はまた、記念イベントを山盛りにするだろう。微力ながら何でもお手伝いを...と、僕はもう来年の心配までしている。それもこれもひばりの遺徳に合わせて、白い猫のお陰だろうか?
週刊ミュージック・リポート