新歩道橋1028回

2018年9月9日更新


 演出家で映画監督の大森青児は、有言実行型。おまけにせっかちと来ている。彼を中心に関西で旗揚げ!? した作詞家集団「詞屋」が、早くも2枚めの自主アルバムを作ると言い出した。この人には川中美幸の劇場公演「天空の夢」ほかで、とび切りいい役を貰っている手前、僕は甲斐々々しく、その手伝いをする。「詞屋」の例会に顔を出して叱咤激励し、「監修」を頼まれるが、何のことはない雑事一手引き受けの取りまとめ役。
 「それにしても...」
 と、僕が会合の都度力説するのは、集団の基本精神の確認。文化発信が東京一極に集中、ことさらに流行歌にその傾向が著しい。それに反旗をひるがえして、
 『関西からヒットソングを!」
 「関西ならではのコンテンツを!」
 と集まったのが詞屋の面々で、大森を筆頭に大学の先生、小説家、エッセイスト、シナリオライター、塾の主宰者など多種多様。そんな知的レベルが面白そう...と首を突っ込んだのだが、これが想うようには参らぬ。毎月持ち寄る作品が、従来のヒット曲をお手本にしてしまうから、独自路線の開発には手間がかかった。
 大分前に作ったアルバム第1号は、結局、東京発の歌たちの類型を脱けられなかった。そこで号令をかけたのは、
 「浪花ものに集中して!」
 で、大阪在住の作詞家もず唱平や、浪花ものが多い吉岡治、たかたかしの仕事を超えられるか? が大テーマになった。
 「こんなもんかな、ひと踏ん張りしますか」
 その上でほどほど作品を並べることにする。
 おそらくアルバム・タイトルにもなるだろう「大阪亜熱帯」をはじめ「ワルツのような大阪で」「まんまる」など何編か。コンセプトからははずれたが、父君を亡くした大森監督の「親父の歌」の実感や、関西で活躍するシャンソンのベテラン出口美保用の「恋のマジシャン」なども加える。詞をまとめても残る問題は作曲、編曲に歌。スタジオに入ればそれなりの経費がかかる。
 「何とかなりますよ、うん、何とかなる」
 と主宰者大森は破顔一笑するが、こちらはそう楽天的にはなれない。
 結局、作曲者として動員した僕の手駒(失礼!)は「大阪亜熱帯」に藤竜之介「恋のマジシャン」は山田ゆうすけ「まんまる」は近ごろライブ活動をしている奥野秀樹なんて顔ぶれ。そう言えば1枚めでは曲を田尾将実に頼んだ。田尾、藤、山田は「グウの会」というのをやり、気心の知れた仲間だが、災難はいつ降りかかるか判らない...と思ったろう。
 ベテラン出口の登場からしてヒョウタンからコマなのだ。前回、女性歌手捜しに苦慮したのが大阪勢。一計を案じて僕が出口に、
 「大勢居るお弟子さんから、見つくろってよ」
 と、乱暴な打診をしたら、演歌系の作品を面白がって、
 「わたしが歌うわ!」
 になってしまった。詞屋の面々はさすがに恐縮して、今回は彼女用の作詞に汗をかいた訳...。
 たて続けに大森監督から電話が入る。今度は歌づくりではなく、災害に遭った岡山・高梁の支援イベントである。NHK出身の彼の映画第一作監督作品は「家族の日」という現代社会視線のヒューマンドラマ。そのロケ地として全面協力を得たのが高梁だった。映画は国内を順次上映、北京映画祭に呼ばれるなど、一定の評価を得ている。イベントは11月10日だと言い、
 「そう言えば井上由美子という歌手が〝高梁慕情〟ってご当地ソングを歌っているそうです」
 と突然固有名詞が出て来た。井上は亡くなった我妻忠義社長のプロダクション、アルデル・ジローの所属。会社は息子の重範氏が引き継いでいて、早速話をしたら前日に他の仕事で現地に居る。
 そんな話をしたのは、8月30日、中目黒キンケロ・シアターの楽屋。翌31日に僕も出演する路地裏ナキムシ楽団公演「雨の日のともだち~死神さんはロンリーナイ!」(作、演出田村かかし)が始まるが、彼はそのスタッフでもある。
 「何って間(ま) がいいんでしょ」
 と、二人で笑い合って、実はこの原稿、その楽屋で書いている。役者と雑文屋の二足のワラジをやって12年め。劇場周辺では物を書かぬと決めていたが、とうとうその禁を破ってしまった。とにかく忙しすぎるのだ。
週刊ミュージック・リポート