新歩道橋1036回

2018年12月1日更新


 「まず、安室奈美恵をどうするかかな」
 そう口火を切ったら、関係者は「えっ?」という顔と、「そうか・・・」という顔になった。11月14日午後、代々木上原の古賀政男音楽財団の一室、開かれたのは「大衆音楽の殿堂」の運営委員会だ。この殿堂は昭和を中心に「歌謡曲、ポップスなどを作詩、作曲、歌唱、編曲、演奏した」人々を顕彰の対象にしている。これまでは各ジャンルとも相当なベテランばかりを選んで来て、若手はまだ参考リストにも入っていない。しかし、安室は〝平成の歌姫〟と呼ばれて、圧倒的な実績を残したうえ、今年引退しているのだから、リストに加えない訳にはいくまい。
  何しろ平成9年に発足したこの顕彰の第1回受賞者は西条八十、藤浦洸、サトウハチロー、古賀政男、服部良一、中山晋平、岡晴夫、東海林太郎、美空ひばり・・・と、もはや歴史上の大物ばかり23人だった。以来ずっと大衆音楽の歴史を追う人選が主。平成30年度は10名(組)で、作詞家は三浦康照、山川啓介、山上路夫、作曲家は北原じゅん、平尾昌晃、歌手はかまやつひろし、三条正人、デューク・エイセス、作・編曲家の服部克久、演奏家が宮間利之と、顔ぶれが大分今日風になって来てはいる。しかしこのうち三浦、山川、北原、平尾、かまやつ、三条は年度内に亡くなったのが追悼選出の理由だ。
  僕が参加しているのは、運営委で、植本浩財団理事長を議長に青木光一歌手協会名誉会長、民放連の青木隆典常務理事、飯田久彦エイベックス・シニアアドバイザー、中江利忠元朝日新聞社社長、永井多恵子世田谷文化財団理事長で元NHK副会長、前山寛邦コロムビアソングス社長に聖川湧が作曲家協会常務理事として参加する。そのそうそうたる顔ぶれに混じって、僕は例によって「年寄りの知ったかぶり」のお手伝いだ。
  この催しには別に選考委員会があって、主な審議はそちらが担当する。運営委は選考基準を確認。おおよその顕彰者数を決めるほかに、会としての参考意見を審査委に具申するから僕の安室案も出る幕があった。他にも何人かの候補を加えたが、いずれにしろ具体化は選考委にゆだねられる。
  《年寄の知ったかぶりなあ、最近はそんな役割が妙にふえた・・・》
  僕がほろ苦くなるのは、BSテレビ各局の〝昭和の歌回顧番組〟に呼ばれることが多いせい。歌謡界の名士たちの〝人と仕事〟について、あれこれコメントする訳だが、この種番組は再放送が多いからしょっ中出演しているみたいになる。11月10日に出かけた岡山・高梁のイベントでも
 「いつも見てるよ」「昨夜も見たぞ」
 と、熟年の紳士たちから声をかけられた。高梁に出かけた訳は、水害で被災した現地を慰問するチャリティーショーの手伝い。この地でロケをした映画「家族の日」の大森青児監督に誘われたのは、その映画にちょい役で出して貰ったのが縁だ。
 《それにしても・・・》
 と僕が少々不満になる。BSテレビも映画もありがたいが、ここ10年余は舞台の役者として精進している。その手前、
 「あれも見たよ」
   と言って欲しいのだ。今年など何と5本もの芝居に、それも相当にいい役で出して貰っているのだが、舞台となると観客数がテレビとは比べものにならないから、やむを得ないのか!
 そんな屈託をかかえながら、これを書いている翌日の15日には、レコード大賞の制定委員会に出席する。昔々、審査委員長を7年もやったが、以来ずいぶん長いご無沙汰をしていた。ところが主催する作曲家協会が弦哲也会長を筆頭に新体制になってのお声がかり。ここでも〝年寄りの知ったかぶり〟が役割か...と観念、いい年の瀬にしたいものだとその気になっている。
 話は大衆音楽の殿堂に戻るが、
 「安室を入れれば、若いファンがドッと来るよ」 と念押しもした。この顕彰、発足以来もう21年にもなり、古賀博物館に展示されている歌社会名士は283名(組)を数えるのに、認知度がいまひとつ。運営委員の一人としては、力足りずを反省しつつ、そろそろ陽動作戦に転じなければと口走ったりする。14日午後には今年の紅白歌合戦の出演者が発表され、15日にはレコ大の部門賞が決まった。さて、新しい年号になる来年の歌社会は、どういう展開を見せることになるのだろう?
週刊ミュージック・リポート