新歩道橋1039回

2018年12月24日更新


 「悲しい酒」から「愛燦燦」まで、ひっきりなしに美空ひばりの歌声が流れて来る。
 《文字通り歌声は永遠だな。彼女が亡くなったのは平成元年、その平成も30年の今年で終わろうというのに...》
 親交があった感慨ごと楽屋のモニターをのぞけば、踊っているのは大衆演劇の座長たちだ。12月12日午後の浅草公会堂、沢竜二が主宰する恒例の座長大会の第2部。
 「また芝居の話か?」
 と、うんざりされそうだが、これが今年、僕が出演した6本目の舞台。第1部が「大親分勢揃い」で、驚いたことに大前田英五郎、清水次郎長、国定忠治に森の石松、桶屋の鬼吉など、有名どころがゾロゾロ出て来る。演じるのが座長たちだから皆な二枚目。ただ一人馬鹿桂という三下で、道化る僕がチョイ役なのにやたらに受ける。お客が笑えるのはここだけという、沢の気くばり配役だ。
 というのも、新聞社勤めのころからの約束で、もう10年近いレギュラー出演。それにこの冬は、沢が「銀座のトンビ」を歌いたいと言うので、プロデュースを買って出てCDを作った。杉本眞人の作品で、彼が歌っておなじみ。老境のプレーボーイが「あと何年、バカをやれるか!?」とネオン街を飛び歩く内容だ。死んだちあき哲也が、杉本の年かっこうと遊び方ぴったりの詞を書いたのだが、これが沢にもモロに当てはまるうえ、何度も出る掛け声の「ワッショイ!」が悲喜こもごも、超ベテラン役者の味で何とも得難い。
 沢と杉本は最近ラジオ番組で合流、大いに盛り上がったそうな。
 「一緒に一杯やろう!」
 がこういう時の決まり言葉だが、新宿育ちの杉本が近ごろ通うのは銀座と聞くし、沢が根城にしているのは池袋である。そう言えばこの歌は、杉本が歌うと銀座っぽくポップス系で、沢が歌うと池袋ふう演歌っぽさがにじむのが面白い。いずれにしろ二人があちこちで、
 〽あと何年、女にチヤホヤしてもらえる...
 〽あと何年、女房に大目に見てもらえる...
 とぶち上げ、なかば自棄の「ワッショイ!」を繰り返す年の瀬、似たような老紳士たちが「ワッショイ!」「ワッショイ!」と声を揃えるか!
 美空ひばりの話に戻ればハワイでやったイベントから、息子の加藤和也と有香夫妻が帰って来た。和也はおなじみゴルフと酒の〝小西会〟のメンバー。葉山国際でやった年忘れコンペのあとで、酔った事後報告が愉快だった。ひばりのフィルム出演と生で競演したゲストが細川たかし。司会の女性と通訳の女性を、ステージ上で手玉に取ってのジョーク連発が大受けした。細川の歯に衣着せぬ毒舌と稀有のユーモア精神はおなじみだが、ハワイの人々は爆笑に次ぐ爆笑。すっからかんに晴れ渡ったハワイと根っから陽性な細川は、これ以上ない組み合わせだ。あげくに歌は歌で、おなじみの細川節でビシッと決めるのだから、ハワイの人々が溜息を下げる様子が目に見えるようではないか!
 美空ひばりと芝居とで、あとはどうなのよ? と聞かれれば、二足のワラジの僕はこの原稿をFAXしたあと、15日には加藤登紀子のほろ酔いコンサートに出かけ、翌16日は作詞家吉岡治の孫の吉岡あまなの大学卒業、社会人一年生のお祝いの会をやり、17日はレコード大賞の表彰式に出る。ひところ舞台裏のあれこれが不愉快で、
 「やってられねえよ!」
 と毒づいて縁切れになっていたレコ大だが、制定委員で久々の復帰。主催する作曲家協会が、弦哲也会長、徳久広司理事長以下、友人たちの新体制に変わってのお誘い。「昔の名前...」のお手伝い、夜は川中美幸ディナーショーに行く。
 時おり町で見知らぬ人から「テレビで見てます」と声をかけられる。BSテレビで盛んな昭和の歌特集に呼ばれて、年寄りの知ったかぶりをやっているせいだが、さて、平成が終わり昭和がもっと遠くなってどうするのか?
 「サザンと安室とピコ太郎じゃ、平成ものはしんどくなるねえ」
 と、きついことを口走りながら、迎える新しい年と新年号である。少々早めだがこの欄も今回が今年の最終回。来年はやせ衰えたイノシシよろしく、80才代の猛進を敢行する覚悟をお伝えして、ご愛読への深謝に代えます!
週刊ミュージック・リポート