新歩道橋

2011年12月2日更新


新歩道橋792回

  「新宿2丁目店にいます。あの辺を通ったら、気をつけて下さい。きっと僕の声が聞こえます」 屈託のない笑顔で、青年がそう言う。ドラッグストアのアルバイトで、店頭でセールストークをぶち上げているらしい。役者だから大声は慣れていよう。人前に出るのも平気だろう。 「おい、丁稚!」 と、僕は彼を・・・

新歩道橋791回

  ♪そうよ、みんなつらいの、うわべは何もなさそうに、生きるふりをしてても… と川中美幸が歌う。「夢」という作品で、11月明治座の彼女の公演のショーの冒頭。歌詞は、 ♪夜にひとりで泣くの… と続き、だから人は夢を探すのだと訴える。作詞が阿久悠、作曲が三木たかし。東日本大震災以後、国難に心・・・

新歩道橋790回

  《もしかすると〝当たり狂言〟って奴が生まれる、その瞬間に立ち合っているのかも知れない…》 決して大仰ではない実感が、日々募るのである。11月明治座の川中美幸公演「天空の夢・長崎お慶物語」に参加していてのこと。客がよく笑い、時に泣いて、反応が相当にビビッド。 「いやあ面白かった」 「各・・・

新歩道橋789回

  「リスペクトなあ…」 ふだんから横文字を使い慣れない僕は、内心ちょこっとたたらを踏む。「敬意」でもいいんじゃないか…と言いたくるのだ。美空ひばりの息子加藤和也氏と、11月11日東京ドームのひばり23回忌イベントについて話していてのこと。同席した男たちもみな、口々にこの単語を口にした。・・・

新歩道橋788回

 次の芝居のけいこに入った。10月17日から、都営新宿線森下駅近くの明治座スタジオ。座長の川中美幸以下懐かしい顔ぶれが揃う。明治座11月公演は「天空の夢・長崎お慶物語」(古田求脚本、華家三九郎演出)だが、これは3月にやったものの再演。というのも3・11の東日本大震災の影響で、日程が短縮さ・・・

新歩道橋787回

  谷建芬という人と食事をした。中国の音楽著作権協会副主席で、全国人民代表大会常務委員会委員の肩書きを持つ。ひらたく言えば〝中国の古賀政男〟だそうだが、女性である。大阪の有名お好み焼き店で一夜を楽しんだ彼女は、日本生まれの大阪育ちで、昭和16年に中国へ渡った。幼いころの味をもう一度…の希・・・

新歩道橋786回

  戸越武吉、通称武さん60才。深川古石場あたりにある堀川銘木店の番頭…というのが、僕の今度の芝居の役だ。昭和30年代の中ごろ、木場の材木商群がそっくり新木場へ移転する前夜のお話。横澤祐一作・演出の「水の行方・深川物語」は、昨今話題になっている築地市場の移転をにらみ合わせてもいようか。 ・・・

新歩道橋785回

  「おひさしぶりです。鳥山浩二です」 と名乗られて、当方はウッと詰まった。声音、口調に聞き覚えはない。芸名にも心当たりがない。 《待てよ!?》 受話器を左手に持ち替えながら、大急ぎで記憶をかき回す。過去のどこかで世話になったか、世話をしたかだろうが、やっぱり思い出せない。歌謡界でメシを・・・

新歩道橋784回

 「ガキのころから川並で修業して来たんでね。いつまでも筏乗りのつもりでいちゃあいけねえとは思うんだけど、三つ子の魂百までってから…」 こんないいセリフがある。劇団東宝現代劇75人の会の第26回公演「水の行方―深川物語」で、僕が貰ったのは銘木店の番頭役。時代は昭和30年代から40年代、深川・・・

新歩道橋783回

  お盆は北海道・鹿部に居た。星野哲郎が毎夏、20数年通ったおなじみの漁師町。「函館から川汲峠を越えて、噴火湾沿いに北上する。車で小一時間、駒ケ岳を仰ぐ人口5千の港町…」と、もう何10回も書いたから、僕はソラでスラスラ…だ。同行したのは作曲家岡千秋、作詞家里村龍一にオオキ(元コロムビア)・・・