新歩道橋

2012年10月14日更新


新歩道橋822回

   都はるみはきっと、作品ひとつひとつを自分の中へ引き込む。詞と曲、それが描く世界を、自分の血や肉に仕立て直して、改めて発信する。作品が訴えるものを、自分のイメージと思いに重ねて、その実感を聴く側に伝えようとする。当然のことながら、彼女のココロになじむ作品と、なじみにくい作品が生まれる・・・

新歩道橋821回

   初日が開いた。また芝居の話で恐縮だが、初日だからと言って、特段の緊張はないし、上がりもしない。自然体(のつもり)で、ズイと出て、秋田弁でしゃべる。幕開き冒頭のシーンだから、僕の長ゼリフまじりが、芝居そのものの空気を決めかねない。ここでトチったりしたら、以後に影響大だから、責任は重大・・・

新歩道橋820回

   ♪風邪引くなんて、久しぶり、おふくろ死んだ朝以来… 石原信一が作詞した「寒がり」という歌の歌い出し2行だ。 《へえ、なかなかやるじゃないか…》 と、僕はあいつの顔を思い浮かべる。 ♪大事な人をなくすたび、寒さがつのるこの頃さ… と続いて、歌のオハナシは別れた女性への思いにいたる。主・・・

新歩道橋819回

   いきなり「帰れないんだよ」である。それも渋い声味と節回しで、感情移入もなかなかだ。虚を衝かれた思いで僕は、マイクを握る紳士を見詰める。ちあきなおみが歌った知る人ぞ知る名曲。玄人好みのやつだから、 《何でまたあなたが、これを!》 と思いながら、二番、三番…。気がつけば僕も、その歌の世・・・

新歩道橋818回

   いきなり出て来たのが〝がや〟という魚の煮つけ。別名が〝えぞめばる〟で、東京で喰らうめばるよりかなり大きいから兄貴分か。脂が乗ってめっぽううまいから、やっぱり焼酎の水割りをいく。聞けばその朝、作詞家里村龍一が釣ったものだそうで、入れ食いで100匹以上の釣果だったと言う。8月25日、北・・・

新歩道橋817回

   「ふう、お前(め)なにをごしゃてるなだ!」 鼻濁音多めの秋田弁に、愛猫の風(ふう)は、きょとんとした目つきになる。つれあいが出かけたあとの、葉山の僕んちの午前。僕がよく芝居のせりふの練習をやる時間帯で、ふうは独特の相づちを打つのが常。主人が何やら一生懸命だから、多少のおつき合いはし・・・

新歩道橋816回

   神前の参拝は「2礼2拍手1礼」と相場が決まっている。神社へ出かけた時以外にも、地鎮祭などいろいろな御祓いで、しょっ中これをやった。バリエーションがあるとすれば、神式の葬儀で、2拍手の音を立てない。これを「しのび手」と言うのだと、ずいぶん以前、星野哲郎に教わった。あれは彼の夫人・朱實・・・

新歩道橋815回

   「えっ、嘘だろ! これがそうなの? へえ、そんなのありかねえ」 大阪・新歌舞伎座の楽屋通路で、突然、そんな会話が交わされた。若手役者たちが手にして、しげしげと見入っていたのは、かなり大きな餡パンで、ケータリングの机に沢山並ぶ。 「平野文部科学大臣からです」 添えられた但し書きに、み・・・

新歩道橋814回

   川中美幸が「ありがとう」を繰り返す。佐賀・嬉野の茶畑が舞台。相手は茶を栽培する農民の世話役や組頭、それに女優陣総出の茶摘み娘たちだ。その一人々々に頭を下げ、手を合わせ、川中扮する大浦屋お慶は「ありがとう」を連呼する。日によって15回から18回、劇場が熱い思いで満たされる。7月新歌舞・・・

新歩道橋813回

   「あんた、鼻が利くねえ、ええ勘しとるわ」 居合わせた浪花のおばはんに褒められた。大阪・上本町6丁目界わい、飛び込んだ居酒屋〝久六〟のカウンターでのこと。見回せば地元の常連客ふうがズラリ。ビルの地下のこの店を、一見さんで選んだ当方の、年の功に感じ入ったらしいのだ。小芋やふき、たこの煮・・・