新歩道橋

2012年4月3日更新


新歩道橋802回

   《かえって、余分な気を遣わせてしまったか…》 ウェッジウッドのマグカップを前に、そんなふうに思った。送り主は久世光彦氏の夫人朋子さん。3月2日に、六本木のスイートベイジル139で開いた久世さんを偲ぶ会で、世話人をつとめたことへのお礼だと言う。あれは久世さんの祥月命日、月日は足早に過・・・

新歩道橋801回

   昔、レコード大賞の審査委員長を7年もやった。その間に渡した僕の名入りの表彰状が、 「うちの2階にいっぱいある。一度見に来てよ」 と川中美幸に呼ばれて、飲みに行ったことがある。一時盛んだったいろんな音楽祭の表彰状や、ヒット賞のトロフィー、記念品などが詰まっていて、その部屋は彼女の宝の・・・

新歩道橋800回

  「この大会初めてのシャッフル企画で~す」 司会の西寄ひがしが大声をあげたので、こちらはニヤニヤした。2月25日午後、横浜アリーナで開かれた「長良グループ新春演歌まつり2012」でのことだが、歌手たちがお互いのレパートリーを交換する。例えば山川豊の「アメリカ橋」を田川寿美、水森かおりの・・・

新歩道橋799回

   こぶりな庭に面して、大きなガラス窓が広がる。応接間の床から鴨居まで、いわゆる〝掃き出し〟という形式。それに緑がいっぱいだ。中央、垣根の向こうにそびえる落葉樹は欅かと思ったら?(ぶな)だと言う。手前にほど良い高さの桜、 《春はもっと、いいだろうな》 と眺めていたら、庭の小低木に一羽、・・・

新歩道橋798回

  いつになく早めの帰宅。と言っても午後10時は回っている。電話機に点滅する留守電とファックスの赤灯。胸騒ぎがしてファックスのボタンを先に押す。最初に流れ出したのは訃報、シャンソン歌手の芦野宏が亡くなっていた――。 87才、2月4日、入院中の聖路加国際病院で死去。間質性肺炎によるもので、・・・

新歩道橋797回

  「美しいものを美しいと感じ、まぶしいものをまぶしいと感じ、やさしいものをやさしいと感じ、豊という意味を問う時、地球は青さをとり戻す」 阿久悠が1979年に書いた詩の一部だ。33年前に彼は当時を、人間性が失われていく時代と捉えていたのだろう。国際児童年だったこの年、この詩は「30年後の・・・

新歩道橋796回

  由紀さおりに電話で「祝意」を伝えた。アルバム「由紀さおり&ピンク・マルティーニ1969」の成功について。日本でも大きな反応を呼んでいるが、日本語で日本の流行歌を世界へ!のコンセプトが、EMIから全世界へ発信中。その陰にある彼女の、自分の歌世界を一途に守って来たこだわり方と、やると決め・・・

新歩道橋795回

   何よりもまず、集中力の凄さに脱帽した。名取裕子の「新春朗読特別公演」で、題材は川口松太郎作「人情馬鹿物語」から「遊女夕霧」と「七つの顔の銀次」の二編。大正末期の深川・森下を舞台に、江戸っ子の人情物語を、面白おかしくしみじみと、ちょいと小粋に…という世界だ。登場人物のやりとりは芝居、・・・

新歩道橋794回

   星野哲郎があろうことか、自分の詞に曲までつけ、そのうえ歌ってるCDがあることをご存知だろうか? まさかそんなものが…といぶかる向きが多かろうが、確かに存在する。平成元年にCBSソニー(当時)から発売された「十人十艶」というアルバムの中の一曲、タイトルは「ゴンドラ哀歌」だ。 ♪命短か・・・

新歩道橋793回

   舞台中央に粋なやくざ姿の沢竜二、仇役の十手持ちと立ち回りがあって照明が変わる。その背後にセリで上がって来る捕り方数名、ズラリと並ぶ御用提灯、背景は青々と伊豆の海…。そこでジャーンとイントロが始まる。沢が吹き込んだ演歌「知らぬが花」で、 ♪わかれ夜風に舞う蛍 添えぬふたりの 写し絵か・・・