新歩道橋

2014年11月9日更新


新歩道橋894回

 芝居の夢を見る。けいこ中のものの一場面だ。いつも通りの立ち位置で共演する人々がいる。いつも通りにお話が進むはずが、何と、突然みんながまるで知らない台詞をしゃべり始める。別世界に放り込まれる僕、棒立ちになる僕、頭の中が真っ白になる僕。 《何だ? えっ? 一体何が始まったんだ?》 逆上のて・・・

新歩道橋893回

 「新宿でしたたかに飲んで、酔った彼女をタクシーでマンションへ送った...」と、どうしても話はそこから始めるしかない。  「歌を作ったんだけど、聞いてくれる?」  と言う彼女に従って、僕は彼女の部屋へ上がる――こう言うと何やら、艶っぽい一件に受け取られそうだが、主人公・・・

新歩道橋892回

 大阪に「詞屋(うたや)」を名乗るグループがいる。作詞家志願!?の男女の集まりで、もう2年ほど毎月例会を開き、作品の合評会をやっている。誘われて3回ほど顔を出したが、勢揃いした面々が、一筋縄ではいかぬ曲者ぞろい。 「釈迦に説法だろうけど、歌詞ってやつは目で読む詩じゃなくて、耳で聞くものだ・・・

新歩道橋891回

 無闇に心が踊る。新しい台本を手にした時だ。どんな芝居なのか、どんな役を貰えたのか。淡いベージュ色の表紙には、作・演出横澤祐一「深川の赤い橋」二幕――と、明朝の活字でクッキリ印刷されている。劇団東宝現代劇七五人の会第二九回公演、二〇一四年十一月五日(水)より十一月九日(日)まで、深川江戸・・・

新歩道橋890回

 「小西さんはグリーンに乗るんでしょ」 芝居のけいこ帰り、横浜まで一緒の女優さんに言われてドキッとした。何とぜいたくな! と、自分でもたまにそう思う胸中を、見すかされた気がしたのだ。実は帰り道がおおむねそうなる。年のせいか疲れが澱にたまるし、大てい誰かと飲んだ後だから酔っている。横須賀線・・・

新歩道橋889回

 何年ぶりになるだろう。やっと田辺エージェンシーの田邊昭知社長に会った。8月25日、明治記念館で開かれた中村美律子と増位山太志郎の新曲発表会。二人のお抱え主・ゴールデンミュージック市村義文社長がやった催しだ。一見関係なさそうな田邊社長やバーニングプロの周防郁雄社長が姿を見せるのは、市村氏・・・

新歩道橋888回

  「見に来てくれませんか!」 と、歌手本人から電話がある。とても珍しいことだが、何だか嬉しい。そのうえにまだもごもごと、 「で、あのォ、あいさつというか、乾杯の音頭というか...」 と口ごもっている。 「判った、判った、何でもやるからさ」 と、僕は即答する。相手は天草二郎。8月23日夜・・・

新歩道橋887回

 夏はやっぱり甲子園だ! と、テレビで高校野球を見る。今年は逆転劇だの超スローボールだの、若者らしいエネルギーや、独自の技法が目立って、ことさらに熱い。球児たちの白い歯の笑顔が随所にちりばめられているから、それぞれの自負や達成感もまぶしい。 《阿久悠ならこの夏を、どういうふうに描くだろう・・・

新歩道橋886回

 話がたまたま、作詞家石原信一の件になったら、 「よろしくと言ってました」 と、作曲家の幸耕平がニコッとした。8月6日午後、渋谷のUSENスタジオで、幸と僕は昭和チャンネル月曜日の「小西良太郎の歌謡曲だよ人生は」の録音をしていた。彼と石原は日本音楽著作権協会の役員になっていて、この日幸は・・・

新歩道橋885回

 北島三郎は30年前に母を、15年前に父を見送っていた。だから彼は長く、大野一族の主として、周囲を取り仕切って来た素顔を持つ。それが5人の男兄弟の末弟、大野拓克氏を施主として弔う辛い夏を体験した。7月25日、東京・品川区の桐ケ谷斎場であいさつに立った北島は、最初から涙声だった。彼を「兄貴・・・